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「高齢者に与えるべき薬の量を誰も知らない」医師が感じた処方薬の間違い

第5回 最強の地域医療

2015年度の概算医療費は41.5兆円に上り、前年比で過去最大の伸びを示しました。膨張する医療費の大きな原因の一つが「薬剤費」。2000年度から2015年度までの間で見ると、調剤薬局は2.8兆円から7.9兆円と倍増したことが指摘されています。薬剤費を抑えることはできないのでしょうか? そもそも薬剤は正しい手順で投与されているのでしょうか? 『最強の地域医療』(ベスト新書)を著した村上智彦医師が、高齢者への薬剤投与の間違いを説きます。

高齢者は「成人」ではない

 

 私は薬剤師の資格もあるのですが、薬には「根拠のない線引き」が残っていると感じることがあります。

 小児の薬の量は年齢や体重、体格によって調整しますが、高齢者は成人ですので年齢が20〜30歳で体重が50㎏の人に合わせた薬が投与されます。

 しかし冷静に考えたら、個人差はありますが内臓機能は若い時よりは落ちていますし、身長や体重も変わっています。つまり薬の量や種類が若い時と同じ方が不自然です。

 要は薬を10種類飲んでいる人は、体重50㎏の成人10人分の薬を飲んでいるのです。副作用の出る確率は薬の数をnとすると2 n の確率で増えていきます。

 統計を見ると、飲んでいる薬が6種類を超えると、意識障害などの副作用が起きる可能性が急激に高くなります。

 また、個人差が大きくて高齢者といっても何歳? という話になります。教科書的には65歳以上ですが、本来は認知能力、筋力測定、視力、聴力や血管年齢、日常生活動作で評価して、それぞれ20歳の時の2分の1くらいになったら「高齢者」と判定するといった基準のほうがいい気がします。

 そして今までの医療の常識も通用しないことが高齢者では多々出てきます。高齢者のエビデンスは日本以外ではなかなか証明できないので、とても大雑把になってしまいますが、いくつかあげてみますと次のようなものがあります。

・塩分は1日12・8g摂っていると長生きである

・高齢者の血圧を下げすぎると認知症が増える

・高齢者でコレステロールを下げすぎると短命になる

・糖尿病の治療も高齢者では厳格にやると死亡率が高くなる

・高齢者は肉中心の食事を取ったほうが長生きである

 暦の年齢だけで考えるのはかなり無理がありますが、ここでは70歳以上の人をイメージして書いています。

 それにしても30歳の人と70歳の人を同じような基準で評価して同じ量の薬を使うのは間違っています。減量したり、種類を変えたり、止めたりすべきものが沢山あります。

 90歳の人に血圧の薬を出していますが、出している医師ははたして90歳まで生きられるのでしょうか。

 例えば正常血圧というのがあります。135/80以下という血圧は、測っている医師や看護師にとっては将来脳卒中や心筋梗塞、認知症を予防して長生きできる数値なのかもしれませんが、それでは90歳の人の正常血圧は誰が保証できるのでしょうか?

 先のことを知らないくせに、ただ単に成人の基準で薬を出しているだけです。場合によっては飲まないほうが余計な害を与えないケースも多々あると思います。

「若い時から30年同じ薬を飲んでいるから……」という方も、よく考えてみると車も服も食べ物も年齢に合わせて変わってきている方がほとんどではないでしょうか。

 もういい加減に「高齢者=成人」という常識はやめるべきです。少なくとも科学的ではありません。

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村上 智彦

むらかみ ともひこ

1961年、北海道生まれ。医師。北海道薬科大学卒業。薬剤師免許取得、臨床検査技師免許取得、北海道薬科大学大学院薬学研究科修士課程修了。金沢医科大学医学部卒業。2006年から財政破綻した夕張市の医療再生に取り組む。専門分野は地域医療、予防医学、地域包括ケア。2009年、若月賞受賞。2012年、8月にささえる医療クリニック開設。2013年、4月に医療法人ささえる医療研究所「ささえるクリニック」を立ち上げ、理事長として岩見沢・栗山・ゆに・旭川周辺をささえている。2015年12月に急性白血病を発症、再発を経て2017年2月に退院。著書に『医療にたかるな』(新潮新書)、最新刊に『最強の地域医療』(ベスト新書)がある。


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  • 2017.04.08