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岩田健太郎医師「感染対策も分析も西浦先生だけに『依存』してはいけない」【緊急連載③】

藤井聡氏公開質問状への見解(第3回)

◼️データの背後にいる感染者

岩田健太郎医師。5月24日ZOOMにて取材

 現在いろいろなところで抗体検査が始まっています。抗体検査にはいろんな問題もあり、どれぐらいの感染者がいたかを正確に把握するのは難しいんですけど、数々の抗体検査が共通して示唆しているのは、「少なくともPCRで我々が認識している患者よりははるかに多くの患者がいたであろう」こと。ここはほぼ間違いないでしょう。そもそも、国の施策だと、感染者全員を診断しようとははなから思っていなかったわけで、だからこそPCR検査を行う基準が世界一といっていいくらい厳しかったのですから。東京などでは、熱が出てあちこちに行って保健所に頼んでも、検査を受けさせてもらえない人もいらっしゃいました。

 つまり、PCR検査では見つかっていない患者さんだって大勢いるわけです。

 西浦モデルはPCRによる患者数をもとに解析して、それで「増えた、減った」といってるわけですけれども、患者さんがぐっと増えた時には、じつは検査で見つかっていない患者さんの割合も増えている可能性が高い。しかし、そこは計算に入れてないんですね。

 そうすると「実効再生産数」をはじめ、あの西浦モデルの計算だけですべてを説明するのはちょっと危険です。データの背後にいる隠れた患者さんの増加も考慮に入れないといけない。

 「3月29日にRtが下がっているから、もうなにもしなくていいんだ」というのは数字とグラフしか見ていない人の言い分で、その裏にいるであろう、もっとたくさんの感染者を勘定に入れると、それは怖くてできない実験です。

 スウェーデンなんかはそういう実験的に対応をとって、「いいじゃないか、外に感染者がたくさんいても」というスタイルをとっているけれど、やっぱりたくさんの方がお亡くなりになっています。本稿準備時点で4000人以上の方がお亡くなりになっています。

 日本だって「死亡者が少ない」って言いますけど、すでに800人以上の方がお亡くなりになっていますし、その数は第一波だけでも、もう少し増える可能性が高い。

 ですので、4月の時点で「緊急事態宣言解除」「なにもしない」という、そこまでの「壮大な実験」的な態度をとるのは、非常に危険だったと思います。

 このように、数理モデルは当然見ないといけないんですが、数理モデルだけで全部決めるってのは無理筋で、併せて他のいろんなデータを見なければいけないわけです。

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岩田 健太郎

いわた けんたろう

1971年、島根県生まれ。神戸大学大学院医学研究科・微生物感染症学講座感染治療学分野教授。神戸大学都市安全研究センター教授。NYで炭疽菌テロ、北京でSARS流行時の臨床を経験。日本では亀田総合病院(千葉県)で、感染症内科部長、同総合診療・感染症科部長を歴任。著書に『予防接種は「効く」のか?』『1秒もムダに生きない』(ともに光文社新書)、『「患者様」が医療を壊す』(新潮選書)、『主体性は数えられるか』(筑摩選書)など多数。


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