日本史の実行犯 ~あの方を斬ったの…それがしです~鎌倉幕府3代将軍・源実朝を暗殺した僧侶~ |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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日本史の実行犯 ~あの方を斬ったの…それがしです~鎌倉幕府3代将軍・源実朝を暗殺した僧侶~

日本史の実行犯 ~あの方を斬ったの…それがしです~

 その後、公暁は建暦元年(1211年)に、落飾(剃髪して仏門に入ること)して、園城寺(おんじょうじ=三井寺)で伝法灌頂(でんぼうかんじょう:真言宗の秘法を受け継ぐ儀式)を受けて、阿闍梨(あじゃり:伝法灌頂を受けた僧侶)となります。
 公暁は一般的に「くぎょう」と言われていますが、園城寺の師である公胤は「こういん」と読むことから、正しい読みは「こうぎょう/こうきょう」ではないかと最近では言われています。

 その後、しばらく園城寺で活動した公暁は、建保5年(1217年)6月に鎌倉へ下向し、政子の命により、鶴岡八幡宮の別当に就任することになりました。
 10月11日に別当として初めて神拝(しんぱい)した公暁ですが、この日から不審な行動を取ります。
 後に鎌倉幕府が編纂した公文書である『吾妻鏡(あずまかがみ)』には、こう記されています。
「宿願に依りて、今日以後一千日、宮寺に参籠せしめ給ふ可しと云々」
 つまり、公暁は別当としての職務を放棄して、ある「宿願」を果たすために1000日もの間、寺に籠って祈り始めたというのです。
 公暁はこの時、剃髪をしなかったそうで、人々はこれを怪しんだと言います。剃髪をしなかったのは「宿願」を果たした後に、還俗(げんぞく)をする目論見だったのでしょう。

 そして、公暁の「宿願」を果たすべき時を迎えます。
 建保7年(1219年)1月27日―――。日中の晴天が一転して夜には雪が降り、2尺(約60cm)の積雪があったそうです。

 3代将軍の実朝は、この前年に官位の昇進が重なり、12月2日に右大臣へと昇格をしていました。
 この1月27日は、その右大臣の拝賀の日であり、多数の公卿や御家人、随兵を従えた大行列は酉の刻(午後6時頃)に鶴岡八幡宮へと向かいました。路次に控えた随兵は1000騎を数えたといいます。
 門弟の三浦駒若丸(こまわかまる:義村の子)から情報を得ていた公暁は、宿願を果たすため、法師の恰好で頭に兜巾(ときん:山伏が被る小さな頭巾)を被って境内に身を隠し、その時を待っていました。

 この時、公暁は大石段の脇にそびえていた大銀杏に身を隠していたという伝説が残されていますが、鎌倉時代に成立した『吾妻鏡』や『愚管抄(ぐかんしょう)』などの史料には記されていません。どうやら江戸時代以降に創られた逸話のようです。

 社殿で右大臣拝賀の儀式を終え大石段を下ると、実朝は立ち並ぶ公卿の前を歩き始めました。公暁は実朝の姿を目にすると、太刀を抜きました。いよいよ宿願を果たす時が訪れたのです。
 実朝はこの時、束帯(公家の正装)の下に着用する下襲(したさがね)の裾を後ろに長く引きながら歩いていました。

 拝賀の列に飛び出した公暁は、下襲の裾に飛び乗って実朝の動きを封じました。そして、長年の恨みを晴らすかのように、太刀で実朝の頭を斬りつけました。
「親の敵(かたき)は、かく討つぞ!」
公暁はそう叫びながら、刀を振り下ろしたと言います。
 その一刀で実朝は重傷を負い、その場に倒れると、公暁はすぐさま実朝の首を挙げました。

 
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長谷川 ヨシテル

はせがわ よしてる

歴史ナビゲーター、歴史作家。埼玉県熊谷市出身。熊谷高校、立教大学卒。漫才師としてデビュー、「芸人○○王(戦国時代編)」(MBS、2012年放送)で優勝するなどの活動を経て、歴史ナビゲーターとして、日本全国でイベントや講演会などに出演、芸人として培った経験を生かした、明るくわかりやすいトークで歴史の魅力を伝えている。テレビ・ラジオへの出演のみならず、歴史に関する番組・演劇の構成作家や、歴史ゲームのリサーチャーも務めるほか、講談社の「決戦! 小説大賞」の第1回と第2回で小説家として入選するなど、幅広く活動している。NHK大河ドラマ『真田丸』(2016年)の第3話に一般エキストラとして14秒ほど出演。また、金田哲(はんにゃ)、山本博(ロバート)、房野史典(ブロードキャスト!!)、いけや賢二(犬の心)、桐畑トール(ほたるゲンジ)とともに、歴史好き芸人ユニット「六文ジャー」を結成、歴史ライブやツアーを展開中。トレードマークは赤い兜(甲冑全体で20万円)。前立ては「長谷川」と彫られている(特注品で1万5千円)。著書に『ポンコツ武将列伝』(柏書房刊)『マンガで攻略! はじめての織田信長』(原作・重野なおき、金谷俊一郎との共著、白泉社刊)がある。雑誌『歴史人』の人気ウェブ連載をまとめた『あの方を斬ったの…それがしです ~日本史の実行犯~』が3月19日(月)配本!


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  • 長谷川 ヨシテル
  • 2018.03.20