トランプと小池百合子と<br />橋下徹は同根のおぞましさ。<br />「大衆扇動と炎上」の論理 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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トランプと小池百合子と
橋下徹は同根のおぞましさ。
「大衆扇動と炎上」の論理

藤井聡(内閣官房参与)×適菜収(作家)の新春放談 「2017年、日本はどうなるのか?」第4回《集中連載》

藤井 日本が「橋下化」しているんです。つまり、もっともらしく聞こえる詭弁をうまく使って大衆の「感情」を煽って行う炎上政治がどんどん幅をきかすようになってきた。その背後には、嘘や誠、善や悪の区別なんて何も無い、というニヒリズムがある。だから、「詭弁」をいくら使っても気にならないし、聞いてる方も何も気にしない。社会全体がそうなるのが橋下化。もちろん人間は「感情の生物」だから、感情に訴えかける事それ自体は悪いことではない。でもだからといって「理性」を無視していいとはならない。やっぱりウソはウソであり詭弁は詭弁。ウソや詭弁がまかり通れば早晩、皆が不幸になって、必ず、皆が地獄を見るようになる。だから政治でも自分の人生でも、どこかで必ず「理性」の力で嘘と誠、善や悪、美や醜を区別する姿勢が求められる。なのに橋下化した社会では、「今までインテリどもは甘っちょろい理性だとか知性だとか言って政治をやろうとしてきた、だけど、人間の本性はもっと醜いものなんだよ!」と、知性や理性が否定される。その上で、大衆を扇動できる「感情」だけを尊重し、理性を軽視、ないしは無視し、糞も味噌も全て一緒に扱う政治が横行するようになる。しかしおおよそ人間は「善」でも「悪」でもない。「善」でもあれば「悪」でもある。だから橋下化で否定される性善説も、橋下化で肯定される性悪説もどちらもおぞましいニヒリズム。そもそも人間は多面的な存在。だから文学、哲学、音楽、演劇、風俗、すべて含んだうえで人間を捉えなければ、まともな政治なんて出来るはずが無い。

適菜 いろいろ考えるのが皆面倒なんですよ。だから、大衆は合理や理性や抽象や理念を愛好する。

藤井 だから、善悪判断はさておき、断定的に「さっぱりと否定する」だけの人間が、人気を浴びる。それがトランプ現象であり、橋下現象であり、小池現象。確かに、森元首相や内田都議を見て、イライラする。それは分かる。でも、そんな「イライラ」だけを燃料にした炎上が延々と続いていると、その内、その炎上に対する不満も新しくまた出てくる。だから今度はそこに火をつけることができれば、「逆炎上」が発生する。そうなれば、火をもって火を制す、ということになって、もともとあった炎上が消えていくことになる。例えば大阪都構想のときも豊洲の盛土問題のときも、「都構想に対する不満」や「豊洲批判、に対する不満」というエネルギーに働きかけたら、逆の方向に燃え始めて、世論が変わっていったわけです。

適菜 今の自称保守陣営がやっているのも似ていますね。お花畑左翼を見ていると単純すぎて普通の人はイライラする。そこに火をつけて商売にするわけです。

藤井 そうですね。ただし、そんな炎上が「ウソ」に塗れたものなら結局不満が必ず出てくる。例えば今は、左翼は力がなくなってきたので、「保守」が主流。そうすると、「保守」という陳腐な物語に対する不満エネルギーがたまっているのが現状です。でも、シールズ的な左翼も賞味期限が切れているので、そのアプローチではその保守に対する不満エネルギーには着火できない。だから、本来の保守的な人間が、今の自称保守に対する不満に火をつける可能性があります。つまり、「真実」の下に火をつけるわけです。まあそれが一番難しいんですが、それをやろうとするのが、本来の政治、というものです。

適菜 左翼の安倍批判が頓珍漢なのは、根が同じだからです。近代理念やグローバリズム路線に疑いを持っていない。安倍をきちんと批判するロジックをもっているのは、真っ当な保守だけだと思います。

※藤井聡(内閣官房参与)×適菜収(作家)新春対談「2017年、日本はどうなるのか?」第5回につづく

 

【著者プロフィール】

◉藤井聡(ふじい・さとし)

1968年、奈良県生まれ。京都大学大学院工学研究科教授。11年より京都大学レジリエンス研究ユニット長、ならびに第二次安倍内閣・内閣官房参与(防災減災ニューディール担当)。著書に『大衆社会の処方箋  実学としての社会哲学』『社会的ジレンマの処方箋 都市・交通・環境問題のための心理学』『大阪都構想が日本を破壊する』『〈凡庸〉という悪魔』『超インフラ論』、適菜収氏との共著『デモクラシーの毒』『ブラック・デモクラシー』など。

◉適菜 収(てきな・おさむ)

1975年山梨県生まれ。作家。哲学者。ニーチェの代表作『アンチ・クリスト』を現代語訳にした『キリスト教は邪教です!』、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』、『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』、『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』(以上、講談社+α新書)、『日本をダメにしたB層の研究』(講談社+α文庫)、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(以上、講談社)、『死ぬ前に後悔しない読書術』(KKベストセラーズ)など。安倍晋三の正体を暴いた渾身の最新刊『安倍でもわかる政治思想入門』(KKベストセラーズ)が発売即重版。3月に続編『安倍でもわかる保守思想入門』が発売予定。

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藤井聡(ふじい・さとし)

 

1968年、奈良県生まれ。京都大学大学院工学研究科教授。11年より京都大学レジリエンス研究ユニット長、ならびに第二次安倍内閣・内閣官房参与(防災減災ニューディール担当)。著書に『大衆社会の処方箋  実学としての社会哲学』『社会的ジレンマの処方箋 都市・交通・環境問題のための心理学』『大阪都構想が日本を破壊する』『〈凡庸〉という悪魔』『超インフラ論』、適菜収氏との共著『デモクラシーの毒』『ブラック・デモクラシー』など。近著に『プライマリーバランス亡国論』(扶桑社)と佐藤健志氏との共著『対論「炎上」日本のメカニズム』(文春新書)がある。

 

適菜 収(てきな・おさむ)

 

1975年山梨県生まれ。作家。哲学者。ニーチェの代表作『アンチ・クリスト』を現代語訳にした『キリスト教は邪教です!』、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』、『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』、『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』(以上、講談社+α新書)、『日本をダメにしたB層の研究』(講談社+α文庫)、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(以上、講談社)、『死ぬ前に後悔しない読書術』(KKベストセラーズ)など。安倍晋三の正体を暴いた渾身の著書『安倍でもわかる政治思想入門』『安倍でもわかる保守思想入門』が絶賛発売中。

 

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