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「国際主義」VS「民族主義」の時代へ

混乱する国際情勢の背景

混乱する国際情勢の背景には、「国際主義」と「民族主義」の戦いが見え隠れしています。そして、私たちは「国際主義」が善で、「民族主義」が悪のような印象を受けます。「グローバルな世界」は一見、「素晴らしい世界」のように感じますが、果たしてそうでしょうか? 元駐ウクライナ兼モルバド大使・馬渕睦夫氏が、国際主義の危険性に警告を鳴らします。

 国際主義には様々な形があります。「共産主義」「社会主義」「リベラル思想」「新保守主義(ネオコン)」「新自由主義(リバタリアリズム)」……。これらの共通項は国家の価値や民族の価値、すなわちナショナリズムの否定であり、ナショナリズムを消滅させて世界を統一すること、つまり、「世界政府」を樹立することです。国際主義のいずれのイデオロギーも、世界政府を樹立することが最終目的であるのです。

 

 この中では、特にリベラル思想がなぜ世界政府と結びつくのかとの疑問を持たれる方も少なくないと思います。リベラル思想とは一般には「自由主義」などと訳されることがありますが、これ自体が一種の“洗脳(、、)”なのです。
リベラリストは、国家を軽視する傾向にあります。国民よりも市民なのです。市民とは伝統的価値とは無縁です。市民的価値のために地域社会を越えて連帯するのです。彼らは伝統社会の連帯意識が希薄であるので、市民的価値を創造して伝統的な絆に縛られない連帯を求めているのです。論理の必然として、既存の社会秩序を否定する方向に流れてしまいます。
 このような思考が結局国家否定に向かうのは避けられないことなのです。リベラルであることは知識人の証明のように誤解されていますが、リベラル思想の持つ陥穽に注意しておく必要があります。
 現在のアメリカの指導原理は、国際主義です。社会主義(共産主義)、リベラリズム、ネオコン、新自由主義など、その時々によって表に出てくるイデオロギーの呼称は変わりますが、根底になるのは国際主義であり、世界の門戸を開放させて世界統一政府を建設することなのです。
 その意味で、アメリカこそ世界の現状変革勢力、つまり“左翼勢力”であるのです。この点を決して誤解してはなりません。アメリカは民主主義の砦でもなく、自由主義の伝道国でもありません。「世界政府」を目指す、「既存秩序破壊国家」なのです。
 アメリカ(政府を牛耳る国際主義者)の敵は、ナショナリズムです。そして彼らは、ナショナリズムの強い国を締めつけようとします。この戦略の下にウクライナ危機に伴うプーチン大統領のロシアに対する制裁政策があります。
 アメリカはプーチンがクリミアを併合したことに対して、解決へ向けての仲介努力を一切行うことなく、対露制裁を強化し続けていることは、満洲事変以降のアメリカの対日締め付け政策を彷彿とさせるものがあります。
 先の大戦時、アメリカは日本の言い分に一切耳を傾けませんでした。結局このようなアメリカの頑なな態度が、真珠湾攻撃に繋がったのでした。
 この歴史の故事から連想しますと、もし今後ともアメリカが一方的にロシア締めつけを強化して行けば、米露の全面戦争になる危険性を排除することができないのです。
 一言で言えば、ロシアのプーチン大統領なロシア愛国者でありロシア市場のグローバル化に反対しているのです。だから、アメリカのグローバリストたちがウクライナ危機を裏から演出し、プーチン追い落としを図っているのです。

<『アメリカの社会主意者が日米戦争を仕組んだ』(馬渕睦夫/著)より抜粋>
 

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馬渕 睦夫

まぶち むつお

元駐ウクライナ兼モルドバ大使、元防衛大学校教授、現吉備国際大学客員教授。

1946年京都府生まれ。京都大学法学部3年在学中に外務公務員採用上級試験に合格し、1968年外務省入省。

1971年研修先のイギリス・ケンブリッジ大学経済学部卒業。2000年駐キューバ大使、2005年駐ウクライナ兼モルドバ大使を経て、2008年11月外務省退官。

 同年防衛大学校教授に就任し、2011年3月定年退職。2014年4月より現職。

 金融、財政、外交、防衛問題に精通し、積極的な評論、著述活動を展開している。

 著書に、『国難の正体』(総和社)、『世界を操る支配者の正体』(講談社)、『日本「国体」の真実』(ビジネス社)、『そうか、だから日本は世界で尊敬されているのか! 』(ワック)などがある。


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  • 馬渕 睦夫
  • 2015.10.09