A I 失業という大嘘――「1房数万円のブドウ」が教える新経済圏の正体【林直人】
■「ルビーロマン・パラダイム」が農業を高度サービス業に変える
私が最も注目しているのは、AIがもたらす「贅沢の民主化」だ。石川県が生んだ1房数万円の高級ブドウ「ルビーロマン」を例に挙げよう。かつてこの品種を開発するには、14年という歳月と気の遠くなるような試行錯誤が必要だった。

ところが、AI駆動型の「ゲノム選抜」技術は、この時間を劇的に圧縮する。苗の段階でDNAを解析し、将来どんな実をつけるかをAIが予測することで、開発サイクルは最大70%も短縮されるのだ。
「すべてのブドウがルビーロマン級になったら価値が下がるではないか」と考えるのは素人だ。品質が底上げされれば、価値の源泉は「味」そのものから「物語」や「体験」といった無形資産へとシフトする。誰が、どんな哲学でそのブドウを作ったのか。どんな特別な空間でそれを食べるのか。
ここには、AIには代替できない膨大な新規雇用が眠っている。バイオIP(知的財産)を管理する弁護士、世界中に最高鮮度で届けるロジスティクスの設計者、そして産地を巡るラグジュアリー観光のコンシェルジュ。AIによる研究開発の加速は、農業という伝統産業を、知財と観光が融合した「高度サービス産業」へと昇華させるのである。
■コンサルタントの「終わり」ではなく「黄金期」の到来
世間では「AIがあればコンサルタントはいらなくなる」とも囁かれているが、これほど現場を知らない意見はない。実のところ、コンサルティング業界はいま、過去数十年間で最大の「ルネサンス期」にある。
現在、世界中の大企業がAI導入を叫んでいるが、実際に成果を出せているのはわずか26%に過ぎない。なぜか。大企業には数十年分の古いシステム、サイロ化されたデータ、そして何より変化を拒む硬直化した組織文化という「巨大な壁」があるからだ。これらを最新AIと統合する作業は、AI自身には絶対に不可能だ。高度な政治力と設計力を持つ「人間」が不可欠なのである。
コンサルタントの役割は、情報の検索・整理という「時間の切り売り」から、AIエージェント群を指揮して組織を変革する「実装アーキテクト」へと進化した。AIガバナンスや倫理監査といった数兆円規模の新たな相談事が、いまや彼らの前に山積みとなっている。業界は衰退するどころか、かつてない需要の爆発に直面しているのだ。
