松本人志の活動再開、松岡昌宏の疑問提起。キャンセル地獄から芸能の楽園を取り戻せ!【宝泉薫】「令和の怪談」(最終回)
「令和の怪談」ジャニーズと中居正広たちに行われた私刑はもはや他人事ではない(最終回)【宝泉薫】
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この本は「ジャニーズ潰し」に対する違和感を綴ったものだ。事件化もしていないことでなぜこんなふうに、故人が犯罪者認定されたり、事務所やタレント、作品までもが損害をこうむったりしたのか。今なおくすぶり続ける思いをなるべく正直に書いてみた。
ただ、覆水盆に返らずという言葉もある。潰された側に肩入れすることはできても、潰した側を論破して、ジャニーズを取り巻く状況を元に戻すことは不可能に近いだろう。なぜならこれは、噂で始まり、現状に大きな変化をもたらしたにもかかわらず、結局、噂のままという不可思議な騒動だからだ。ろくに証拠もないのに、怪しいから黒だ、と言い続ける相手に、そっちこそ怪しいじゃないか、真相がわからない以上、白と見なすしかないと言い返しても、平行線をたどるほかない。
そもそも、ジャニーズを葬ったのは、特定の個人や団体ではなかった。そういうことなら、話はまだ簡単だ。もちろん、不穏な動きは以前からあり、それがジャニー喜多川及びメリー喜多川の死後、一気に噴き出したというのは間違いない。あわよくば、で、告発した人や、仕掛けを考えた人、そこに協力した団体などもいる。が、それらをこれほどまでの大成功に導いたのは世間の空気というやつだ。世間といっても個人の集合体だから、乗っかる人がどれだけいるかで空気が変わる。この騒動においては、潰す側に乗っかる人が驚くほど多かった。
そこにはやはり、雑誌やテレビといったメディア、とりわけ、いわゆる「文春砲」が果たした役割が大きい。「文春砲」という言葉が生まれた当時の編集長は、松本人志の騒動に絡めて、警察が事件化しないものを雑誌があえて報道しているという意味の発言をしている。警察関係者に聞いたところ、この程度の話では事件化は無理とも言われたそうで、それなら雑誌でやってやろうというわけだ。そこには告発者の応援をしたいという思いもあったようだが、結果として、事件化できないものをメディアが騒動にして、ときには断罪というところまで行き着いてしまうというかたちができあがった。ジャニーズ騒動の場合は「狂騒」と形容したいほどの状況で、かなりの人が断罪に興じていたように思う。
それはもう、正義感、いや、正義妄想の暴走が生み出した新種の快楽ともいえる。しばらくすると飽きてしまったり、あれは乗りすぎだったと後悔している人もいるだろうが、快楽なんてそんなものだ。とはいえ、それも時代の空気が生み出したものなので仕方ない。その空気のなかでは、この本もひとひらの雪みたいなものだろう。
それでも出すのは、意味があるからだ。たとえば、筆者が2016年に出した『痩せ姫 生きづらさの果てに』という本がある。痩せることにとらわれ、葛藤する女性たちへの偏愛を綴ったものだ。いわば、自分が感じる彼女たちの魅力を紹介して表現したかっただけだが、当事者のなかにも自信につなげたり、お守りのようにしてくれたり、さまざまなかたちで自己実現に活かす人がいる。
ジャニー喜多川における少年たちへの思いも、世間から見れば偏愛だろう。それゆえ、筆者は彼にシンパシーも抱いてきた。偏愛はその対象とのバランスをとるのが難しい。共感も生めば、反発も招いてしまう。しかし、ジャニーは筆者など比べものにならないスケールで、自らの偏愛をエンタメに昇華し、長きにわたってファンを愉しませてきた。
ときには齟齬や軋轢も生じるため、死後にこのような騒動が起きてしまったといえるが、何度も言うように、真相はわからず、事件化はしていない。つまり「冤罪」と呼ぶことすら失礼な話だ。「死人に口なし」の哀しさだが、せめてこの本を書くことで、この騒動の不可思議さを伝え、彼とジャニーズアイドルをめぐる間違った評価やイメージが定着することを防ぎたかった。同時代の人たちはもとより、後世の人たちにとっても、参考資料になれば幸いだ。
なお、ジャニーズアイドルたちの今後についてはそこまで心配していない。これは貴種流離譚のひとつだと見なせるからだ。光源氏の須磨流謫などのように、物語の主人公、すなわちスターには逆境がつきもの。それを乗り越えることで、さらなる魅力が加わっていく。影が光を生むのである。そこを信じて、自由に生きていってほしい。
ジャニーズアイドルは、ガラスの宝箱。ファンの心のなかで、それはいつまでも輝き続け、もう壊されることもない。彼らの輝きは永遠だ。
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『痩せ姫 生きづらさの果てに』
エフ=宝泉薫 著
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