【高市発言】中国が日本への猛抗議で持ち出した「敵国条項」とは? (後編)高市政権は“帝国日本”の凋落を加速化させた理由【中田考】
《中田考 時評》文明史の中の“帝国日本”の運命【第5回】

◾️4.臨界点としての台湾――破滅の始まり
ポストコロニアル国家批判理論の視座に立つとは何か。それはまず、現行の国際秩序を19世紀を頂点とする西欧帝国主義列強の表層的な政治的軍事的な覇権が終了した後も植民地支配の過程で植えこまれ内在化され残存した旧宗主国の価値観を対自化し再評価することである。
この視点から見ると、日本語の空間で支配的な言説とは全く別の光景が見えてくる。『ガメ・オベールの日本語練習帳』の著者でニュージーランド在住のイギリス人ジェームズ・フィッツロイのネット上の論考「臨界点としての台湾――破滅の始まり」の高市発言の評価を長文になるが以下に引用する。
地理的には国境の外だが、日本の安全保障のための「国家政治的境界線を揺るがす事態」として認識され、事前阻止(先制)を含む武力行使の可能性を前提に語られているという点で、高市の「台湾有事存立危機発言」が先ほどあった危機と朝鮮半島へのロシア南下危機はよく似ている。
これは実は欧州ではロシア人の考え方として知られているのですが、高市政権は「周辺の安全保障は直接の自国防衛である」というバッファ国家防御論がある。プーチンと寸分違わぬ話です。
良い悪いというよりも、この「敵とのあいだにバッファとなる国が挟まっていないと安心立命が得られない」というのは、してみると、確かに噂通りたいへんアジア的な思考なのかもわかりません。
考えてみると、「バッファ」と目された国のひとびとにとっては、複雑な気持ちを通り越して、いい迷惑というか「なに言ってんのあんた」的な主権無視もいいところの考え方で、伝えられる、もっか台湾の人の心の中に芽生え始めた日本への不信感はそういうことです。
「あのお、わたしたちも一応あなた方とおなじ生活がある人間なんですけど」と思っている。陸奥宗光や山県有朋、大隈重信といった明治の政治家らは、「朝鮮は日本の生命線」と何度も繰り返していて、よく考えてみれば現実への誤認識も甚だしい、この恐怖過剰のヘンテコリンな地政観を、公理のように信じていました。読んでいて頷く人もいるでしょうが、これが、今度は破滅の原因になる。「満洲は日本の生命線」に真っ直ぐ到達していきます。
台湾が併合された瞬間「日本は詰む」という恐怖心は、日本人であれば一般的なものです。それで当然出た段階で「武力阻止」まで飛躍して、中国側がびっくらこいてそうなるような反応が、慎重な口から出てくる。実際、日清・日露戦争が、このロジックに支えられていたのは、当たり前だが、中国の人なら、誰でも忘れようにも忘れられない史実で、「またか。日本人は、こりない人々だなあ」という辟易した気持ちになるのは、これほど当然のことはないでしょう [11]。
《憲法無視戦術に出た安倍首相が絞め殺しにかかり、高市首相が、台湾問題についての曖昧のカーテンを破り去ることによって、非暴力主義としての戦後民主主義は、ひと頃は試みられた蘇生どころか、埋葬されて、実質、すでに歴史になりつつある》と述べ、フィッツロイは高市が契機となり構造的変化が炙り出された日本語空間における表層的な平和主義をめぐる論戦の下に隠蔽された現実世界の暴力的支配構造を「ポストコロニアル国家批判理論」の道具立てを使って暴きだす。
フィッツロイは敗戦後の日本の「非暴力(平和)主義」の暴力の隠蔽による存立のメカニズムを冷徹に描き出す。
マジモンの北朝鮮というか、なんだか、やたら知力が高い国民が全力を挙げて、自分の生活さえどうでもいい「軍事物狂い」で、全身これ暴力のような周縁文明を築き上げて、自分より弱いとみれば襲いかかる東海の夜叉のような印象であった大日本帝国が、ものの見事に非暴力国家に変身することに成功したが、それはアメリカ軍という巨大な暴力の手によったことは、世界史の最大の皮肉のひとつだ [12]
フィッツロイによると、敗戦後に米軍によって民主化された日本の非暴力主義の社会は二重構造で出来ている。表層は、平和国家・軍事力放棄・平和憲法主義であるが、その隠された下層には、国民に対して隠蔽された密約だらけの日米軍事同盟、地位協定下で暴力的な異物のような米軍基地の存在など、表層を維持するための、無数の「嘘」が潜んでいる。つまり暴力は実際に否定されているわけではなくて、政府とメディアによって管理され、米軍に委託されているわけである。戦争も主体たることを拒否する代わりに、秩序維持や抑止のための暴力を、軍事同盟や国際秩序への組み込みを依願することによって引き受けてもらう、アウトソーシング(外部化)することで、国内は清浄な「非暴力文化」で満たされる、という構造を有していた。
警察権力や自衛隊などに表象される国家が「国民にやさしい」わけではない。国家暴力発動の閾値が制度手続きで高く保たれて恣意的な運用を阻止されてきた、つまり国家暴力を縛ってきたことによって、戦後の平和(非暴力)主義はかろうじて実現されていたに過ぎなかった。そういう意味でも安倍政権につづく高市政権によって、戦後民主主義は命脈を絶たれたといってよい、とフィッツロイは診断する。
日本の戦後民主主義が生んだ非暴力社会の弊害として、まずフィッツロイは「暴力の外部化」による歪みを挙げる。自分では「非暴力」を謳いながら、抑止や戦力投射をアメリカに委ねると、アメリカの側から見て、日本側の受益(国の安全)と負担(戦争を始めることによる国家リスク、自国民が流す血、コスト)のバランスが崩れた場合に「おれは利用されているのか?」という疑問が起きやすいことである。
そしてまさにそれが現在MAGAトランプが日本に突きつけている不満であることは、前回の連載「【高市発言】中国が日本への猛抗議で持ち出した「敵国条項」とは?「日本政府が国際政治を全く理解していない」と分かる理由【中田考】《中田考 時評》文明史の中の“帝国日本”の運命【第4回】」2025年12月10日付『ベストタイムズ』の《7.トランプ・習会談(5頁)》で詳述した通りである。
フィッツロイは《いまの日本が、どちらへ進むかは、一にも二にも、日本語という言語が、どれだけ健康を取り戻すかにかかっていると考えています。正語を取り戻し、より多くの観点を持ち、どれだけたくさんの有効な「補助線」が引けるかで、直ちに日本の未来が決まってしまうところまで、日本は社会として、国として、追い詰められている》との言葉で「対抗民主主義非暴力主義の終焉」を締めくくっているが、筆者はその「補助線」の一つがイスラームのカリフ制だと考えている。
注 [11] ガメ・オベール(JAMESJAMES)「臨界点としての台湾――破滅の始まり」2025年11月25日付『Substack』(https://substack.com/home/post/p-179860453)誤字脱字を一部修正の上で引用。 [12] 以下の引用は全てガメ・オベール(JAMESJAMES)「対抗民主主義非暴力主義の終焉」2025年12月14日付『Substack』(https://substack.com/inbox/post/181544399?utm_source=post-email-title&publication_id=4834262&post_id=181544399&utm_campaign=email-posttitle&isFreemail=false&r=6tdk5o&triedRedirect=true&utm_medium=email)誤字脱字を一部修正の上で引用。
文:中田考
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「日本は、国論分裂のままにいたずらに時間を食い、国家意志の決定と表明のタイミングの悪さや宣伝下手が災いし、結果的には世界トップ級の経済的貢献をし、汗も流したにもかかわらず、名誉を失うこととなった。
納税者としては政治の要領の悪さがもどかしく悔しいかぎりである。
私は「国力」というものの要件は経済力」、「軍事力」、そして「政治力」だと考えるが、これらの全てを備えた国家は、現在どこにも存在しない。
(中略)
そして日本では、疑いもなく政治力」がこれからのテーマである。
「日本の政治に足りないものはなんだろう?」情報収集力? 国会の合議能力? 内閣の利害調整能力? 首相のメディア・アピール能力? 国民の権利を保証するマトモな選挙? 国民の参政意識やそれを育む教育制度?
課題は随分ありそうだが、改革の糸口を探る上で、アメリカの政治システムはかなり参考になりそうだ。アメリカの政治にも問題は山とあるが、こと民主主義のプロセスについては、我々が謙虚に学ぶべき点が多いと思っている。
(中略)
本書では、行政府であるホワイトハウスにスポットを当てて同じテーマを追及した。「世界一強い男」が作られていく課程である大統領選挙の様子を描写することによって、大統領になりたい男や大統領になれた男たちの人間としての顔やフッーの国民が寄ってたかって国家の頂点に押し上げていく様をお伝えできるものになったと思う。 I hope you enjoy my book.」
(「はじめに」より抜粋)
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How much do you know about the worlds’s most powerful person―the President of the United States of America? This is the way how he wins the Presidential election, and how he rules the White House, his mother country, and the World.



<著者略歴>
高市早苗(たかいち・さなえ)
1961年生まれ、奈良県出身。神戸大学経営学部卒業後、財団法人松下政経塾政治コース5年を修了。87年〜89年の間、パット•シュローダー連邦下院議員のもとで連邦議会立法調査官として働く。帰国後、亜細亜大学・日本経済短期大学専任教員に就任。テレビキャスター、政治評論家としても活躍。93年、第40回衆議院議員総選挙に奈良県全県区から無所属で出馬し、初当選。96年に自由民主党に入党。2006年、第1次安倍内閣で初入閣を果たす。12年、自由民主党政務調査会長に女性として初めて就任。その後、自民党政権下で総務大臣、経済安全保障大臣を経験。2025年10月4日、自民党総裁選立候補3度目にして第29代自由民主党総裁になる。本書は1992年刊行『アメリカ大統領の権力のすべて』を新装重版したものである。
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