『東京人』ってどんな人?【新保信長】 連載「体験的雑誌クロニクル」27冊目
現物が残っている分で一番古いのは、1991年3月号「東京くぼみ町コレクション」だ。「くぼみ町」といっても地形のことではないらしく、特集扉には〈くぼみに水が溜まるように、都市にも時間が佇み、ゆっくり流れる町がある。それぞれの筆者と写真家が記憶の光景を呼び集め、現在の時間と重ね合わせる。――さあ、なつかしい未来へ〉とのリード文が掲げられている。
いささか漠然としているが、この「筆者と写真家」がとりあえず豪華。筆者のほうは、村松友視(佃島)、緑魔子(町屋)、巖谷國士(五反田)、光瀬龍(赤羽)、池内紀(雑司が谷)、津島佑子(本郷)、市川準(中延)、赤瀬川原平(月島)など。写真は、島尾伸三、武田花、北島敬三、小松健一が担当している。特集テーマがどうであれ、上質なエッセイと写真の組み合わせに魅せられた。ほかに「私小説・探偵小説はくぼみ町から生まれる」と題した種村季弘×松山巖の対談、荒木経惟インタビューなどもあり、連載には如月小春、南伸坊らも登場している。書評などの文化欄も充実で、「これは“買い”だわ」と今見ても思う。

同年6月号「書を持って街へ出よう!」も当然“買い”だ。「『東京』解読ブックガイド」とのサブタイトルどおり、「定番」「建築・都市・町歩き」「ミステリ」「小説」「ノンフィクション」といったテーマ別に、その分野の識者が対談形式でおすすめ本を語る。特集とは別立ての企画だが、島森路子×向井敏×丸谷才一による「『マリ・クレール』と『スイッチ』は新型の文芸雑誌」と題した鼎談も雑誌好きには見逃せない。
その後も気になる特集の号は買ってきた。手元に残しているのは特にお気に入りの号ということになるが、ラインナップを見ていると自分の興味の傾向がわかってくるのも面白い。
まず、建築系の特集が目につく。「残したい建築大集合」(1998年4月号)、「現代建築ガイドブック」(1999年10月号)、「東京住宅 『都市の住まい』探訪記」(2001年3月号)、「たてもの東京昭和史」(2002年9月号)、「建築家と東京」(2003年4月号)、「建築を見に、美術館へ」(2005年6月号)など。建築の専門知識はないが、見るのは好きなのだ。
映画、演劇、音楽、本などカルチャー関連の特集も多い。「劇場へようこそ。」(1997年11月号)、「神保町の歩き方」(1998年6月号)、「古本道」(2001年5月号)、「映画の中の東京」(2009年11月号)、「歌謡曲の東京」(2015年7月号)、「特撮と東京 1960年代」(2016年8月号)、「シティ・ポップが生まれたまち」(2021年4月号)、「東京映画館クロニクル」(2022年12月号)、「僕らが愛したなつかしの子ども雑誌」(2023年7月号)、「劇場に行こう!」(2024年12月号)ほか。前述のマンガ特集も、この範疇に属する。
路地、酒場、街、鉄道などにスポットを当てた特集は、雑誌のコンセプトからしても王道と言えよう。「モダン東京盛り場案内」(1992年11月号)、「私鉄沿線カルチャーマップ」(1997年10月号)、「東京23区大事典」(2000年11月号)、「東京酒場めぐり」(2005年1月号)、「東京の路地大事典」(2005年2月号)、「東京アンダーグラウンド」(2013年10月号)、「東京アジアンタウン」(2018年6月号)といった特集が印象に残っている。

