【脳梗塞になった出版局長】病院では転倒に一番気をつけろ! もし転倒したらインシデントレポートだ!【真柄弘継】連載第5回 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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【脳梗塞になった出版局長】病院では転倒に一番気をつけろ! もし転倒したらインシデントレポートだ!【真柄弘継】連載第5回

リハビリと自主トレを頑張った証しは筋肉痛。入院中の筋肉痛に塗りまくった軟膏は全部で7本。

 

 

◆寝返りで動かない身体に反応して目が覚めてしまう毎日

 

◾️9月3日水曜日

今日から朝の自主トレの後にご褒美ができた!

昨日、栄養士さんから朝の筋トレの後に飲むようにと筋肉サポートゼリーを渡されていたのだ。

朝からたっぷり汗を流した後の、冷えたゼリーは爽快だ。

尚且つ筋肉も増強できるなんて、一石二鳥じゃありませんか!

後半のリハビリ生活の励みになること間違いない!

今日最初のリハビリは、昨日に引き続き膝立ちでの歩行練習。

麻痺して動かない脚を動かすための筋肉を鍛えるわけだが、これがかなりきつい。

それでも歩くための筋肉強化になるなら、なんのこれしきと涼しい顔でいた。

だが終わって車椅子に座ったら身体は正直者。

疲れがどっと出たのである。

とはいえ、15分ほど休憩したらマシンでの自主トレをやりに1階へ。

今日のスケジュールだと午後は手と腕のリハビリ。

マシンの自主トレは1回にしようと思い、時間だけ10分を15分にしたのである。

自主トレのあとの午前最後のリハビリも脚。

自立4の課題である2階病棟の廊下を一周歩く。残り時間はストレッチで追い込んだ脚を解(ほぐ)してもらい終了。

昼御飯は冷やし中華。

麺類を左手で食べるのにも、だいぶ慣れてきた。

反対に麺をすするのがヘタになったのはなぜだろう?

 

リハビリのマッサージ(イメージ写真:PIXTA)

 

今日は入浴日。

入浴は部屋にて待機して呼ばれたら浴場へ。

最初の頃は浴場まで車椅子で運んでもらい、洗体も浴槽へ浸かるのも全部介助だった。

部屋から車椅子は一緒だけど自分で移動し、身体も背中と左腕以外は自分で洗えるまでになった。

身体を拭くのは背中と左腕以外は出来るし、着替えも介助がなくても出来る。

これはリハビリのお陰で身体の動きを呼び覚ましたからである。

脳梗塞で半身不随になってから、リハビリで回復するのだから驚きだ。

症状や後遺症の程度の差は人によってあれ、如何に早くリハビリを始めるかが重要だ。

 

午後最初のリハビリは予定変更で手から足になった。

午前中にびっしりやったと思っていたから体力が底をついている。

装具を着けてトレーニングルームを一周したらバテてしまった。

最後のリハビリでは腕のストレッチ。

掌が上を向くように電気と共に捻りながら筋肉を伸ばしたが、やはり固くて痛みに耐えるので精一杯だった。

昨日の夜は一時間ごとにトイレで目が覚める。

睡眠不足だったのかもしれず、昼御飯を食べて入浴を済ませたら、とにかく眠たくて仕方がない。

今夜は疲労でしっかりと眠りたいものだ。

脳の病気は厄介で、寝返りで動かない身体に反応して目が覚めてしまうのだ。

早く寝ても遅く寝ても、どちらにしても目が覚めるなら、少しでも脳と身体を休めるために早く寝るのが正解だろう。

 

◾️9月4日木曜日

朝の自主トレが終わると汗で濡れた前日の服とタオルを洗濯篭に入れにいく。

暗い廊下を車椅子で往復するとき、こんなこといつまでも続くんだろうと思っていた。

患者さんたちが寝静まった早朝。

動かない右半身のリハビリ。

車椅子でしか移動出来ない毎日。

希望があるから落ち込むことはなかった。

けど繰り返される毎日に、いつ変化が訪れるのか、毎朝洗濯物を運ぶ度に考えていた。

 

しかし、9月になって展望が開けてきた。

もう少しで歩いて篭に入れにいくことができんだと思いながら車椅子を脚で漕いでいる。

こりゃ日記に書いておかないと、と思った次第。

 

リハビリは足をメインに行い、朝から歩くことを中心に筋トレやストレッチ。

少し負荷を増やした内容となった。

そして、午後の今日最後のリハビリでは、予期せぬことがあった。

最初は歩きから始まったのだが、セラピストさんが、

「まだまだイケるでしょ?」

と、左足の出し方をゆっくりと出すことからペースアップしようと。

驚くことに、その左足の早さに右足がついていけたのだ!

その勢いでトレーニングルームを2周。

あとで血圧脈拍を測っても正常値の範囲内だった。

そこで今度は68日以来の、外を歩くことができたのだ!

距離にして100メートルほどだが、ムアッとする外気の中を自分の足で地面を踏みしめて歩いたのだ!

それもトレーニングルームを歩くような慎重にゆっくりでなく、左足は健康な時のような歩幅で歩いたのである!

実に約3ヶ月ぶりの屋外の地面を自らの足で歩いたのである。

外の蒸し暑い外気からエントランスに戻ってきた時の涼しいこと!

今日の気温は30度ほど。

湿度は台風が近づいているからか高い。

今年の夏の酷暑ほどではないが、入院以来の初めての屋外歩行は、思いのほか気持ちが良かった()

念のためもう一度血圧脈拍を測った。

正常値の範囲内で変わらなかった。

来週には装具が届き、気温が下がれば問題なく外を歩けることがわかった。

またしても展望が開けたのである。

ところが、これだけでは終わらず、そのまま階段のところへ。

前回は踊り場までの昇り降りだったけど、今日は2階まで行くことができた。

そこから降りるのはエレベーターで1階に戻り、車椅子まで歩いて帰ったのだ。

心地好い疲労感と外を歩くことができた興奮のまま、装具を作るための採寸を受ける。

せっかく昨夜は眠りも充分とれたのに、外を歩いたことに興奮して、こりゃ今夜は寝つけないかもしれないと、少しだけ不安になったのではあるが()

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真柄弘継

まがら ひろつぐ

現役出版局長

1966年丙午(ひのえうま)126日生まれ。

1988年(昭和63)に昭和最後の新卒として出版社に勤める。

以来、5つの出版社で販売、販売促進、編集、製作、広告の職務に従事して現在に至る。

出版一筋37年。業界の集まりでは様々な問題提起を行っている。

中でも書店問題では、町の本屋さんを守るため雑誌やネットなどのメディアで、いかにして紙の本の読者を増やすのか発信している。

 

2025年68日に脳梗塞を発症して半身不随の寝たきりとなる。

急性期病院16日間、回復期病院147日間、過酷なリハビリと自主トレーニング(103キロの体重が73キロに減量)で歩けるまで回復する。

入院期間の163日間はセラピスト、介護士、看護師、入院患者たちとの交流を日記に書き留めてきた。

自分自身が身体障害者となったことで、年間196万人の脳卒中患者たちや、その家族に向けてリハビリテーション病院の存在意義とリハビリの重要性を日記に書き記す。

また「転ばぬ先の杖」として、健康に過ごしている人たちへも、予防の大切さといざ脳卒中を発症した際の対処法を、リアルなリハビリの現場から当事者として警鐘を鳴らしている。

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