滝沢秀明が背を向けた伝統。されど、ジャニーが愛した景色はあの「神ウタ」に刻印されている【宝泉薫】「令和の怪談」(12)
「令和の怪談」ジャニーズと中居正広たちに行われた私刑はもはや他人事ではない(12)【宝泉薫】
曖昧な告発と世間の空気によって犯罪者にされたジャニー喜多川と、潰されてしまった事務所。その流れは、今年の中居正広、さらには国分太一をめぐる騒動にも引き継がれている。悪役を作って叩きまくる快楽。しかし、その流行は誰もが叩かれる対象になる時代の到来ではないのか。そんな違和感と危惧を、ゲス不倫騒動あたりまで遡り、検証していく。

第12回
滝沢秀明が継げなかった伝統。されど、ジャニーが愛した景色はあの「神ウタ」に刻印されている
ジャニーイズムの体現者かつ継承者のようだったのに、じつはそうでもなかったのではと思わせる男。それがジャニーズJr.全盛期のエースであり、引退後は幹部入りしたことで、真の後継者になるとまで目されていた滝沢秀明だ。
筆者は現在「カクヨム」において、自らの過去ツイートとともにジャニーズ騒動を振り返る試みを行っているが、そのひとつに「勝手に後継者となり、勝手にやめていった滝沢秀明の謎」というタイトルをつけたところ、けっこうな数の人が読んでくれた。そう感じている人が少なくない、ということだろう。
実際、事務所を飛び出したあと、彼が手がけているアイドルを見ていると、ジャニーがやっていたそれとは似て非なるものを感じてしまう。また、彼の薫陶を受け、彼についていくのではと思われたSnow Manは事務所に残ることを選んだ。最近は嵐がかつて得意としていたバラエティーのスタイルを受け継いだり、メンバーのソロ活動も好調だったりで、ジャニーズの次の王道グループになりそうな気配さえある。
では、滝沢界隈のどういうところが「似て非なる」かというと――。ジャニーイズムにはその象徴というべき「神ウタ」がある。『勇気100%』だ。
1993年に光GENJIのシングルとして発売されたこの曲は、その後、キーやアレンジを変えたりしながら、光GENJI SUPER5、Ya-Ya-yah、Hey! Say! JUMP、NYC、Sexy Zone、ジュニア Boys、ジャニーズJr.、なにわ男子らによって歌い継がれてきた。『紅白』でも四たび歌われ、ライブでも披露されることの多いジャニーズスタンダードである。
その最たる特色は、アニメ『忍たま乱太郎』の永世主題歌だということだろう。それだけの地位を占めているのは、寮生活をしながら忍術修業をする少年たちという物語に、ジャニーズの若手グループの歌声が見事にハマったところが大きい。
その両要素をつないだのが、松井五郎の詞や馬飼野康二の曲。特に数々のジャニーズソングでも知られる馬飼野はこのシリーズ全般の音楽も担当し、エンディング曲や挿入曲の大半を手がけてきた。それらもジャニーズの若手グループによって歌われるので、その世界観は揺るぎない。『終わらない SCHOOL DAYS』や『世界がひとつになるまで』『ゆめのタネ』『やんちゃなヒーロー』といったタイトルのそれっぽさ。そして『勇気100%』が幼稚園や小学校の運動会で行進曲などに使われていることを思えば、ジャニー喜多川が理想とするものはこのアニメによって実現している、とすら考えられる。
そんな世界観と、滝沢が今やっていることとは質感が異なる気がするのだ。
その一方で、なにわ男子が引き継いだ『勇気100%』の最新版については「これこそジャニーズ!」という絶賛が目立った。このグループがキラキラとトンチキという、ジャニーズ的可愛さのいちばんの継承者であること、作品の仕上がりがアレンジなども含め、原点回帰的なものを感じさせたことがその理由だろう。
つまり、ファンが期待するジャニーイズムの根源はいたってシンプル。元気で可愛い男の子が好きで、その輝く姿を見たいというところに行き着く。それを男性でありながら60年近くにわたって追い求め続けたジャニー喜多川のすごさ。誰にも真似できないかわり、本人が死んだからといってたやすく途絶えるものでもないだろう。希望的観測というより、そう確信している。
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