滝沢秀明が背を向けた伝統。されど、ジャニーが愛した景色はあの「神ウタ」に刻印されている【宝泉薫】「令和の怪談」(12) |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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滝沢秀明が背を向けた伝統。されど、ジャニーが愛した景色はあの「神ウタ」に刻印されている【宝泉薫】「令和の怪談」(12)

「令和の怪談」ジャニーズと中居正広たちに行われた私刑はもはや他人事ではない(12)【宝泉薫】

 

 そんなジャニーの業績について、こんな記事を書いたことがある。

『フォーリーブス、たのきん、少年隊、光GENJI・・・ジャニー喜多川の最高傑作を決めよう(前編)SMAP、キンキ、嵐、キンプリ・・・ジャニー喜多川の最高傑作を決めよう(後編)』(「BEST TiMES24年2月配信)

 事務所の草創期から彼の晩年まで、時代を追いながら書いたので、ジャニーズアイドルの歴史と魅力が同時に伝わる仕組みだ。ただ、これを書いてから8ヶ月後、20代前半のジャニーズファンの女性と会話する機会に恵まれた。ちょうど、ジャニーズJr.のエース的存在だった高橋優斗が退所した直後のことだ。その際、ひとつの気づきがもたらされ「最高傑作」についての考えが少し変わったのである。

 

 ジャニー喜多川がデビュー組より、ジュニアの育成に熱心だったことはよく知られているが、そんなジュニアの全盛期が90年代の末。滝沢秀明がエースだった時代だ。

 しかし、その20年近くあと、全盛期の再現を期待させるような盛り上がりが起きた。2017年には『JOHNNYS’ YOU&ME IsLAND』と題した舞台が帝国劇場で開催されている。

 当時のエースは平野紫耀。

「ジャニーズJr.だけでこの帝国劇場に立たせていただくということは本当にすごいことなので、僕たち一人一人責任感を持って、1ヶ月長いですけどケガなく、日々成長できるような舞台にできたな、と思います」

 と、意気込みを語った。

 ただ、その翌年、平野がキンプリ(King & Prince)の一員としてデビューしたため、そのあとのジュニアをまとめていったのが高橋優斗。19年1月には、ジュニアのための会社・ジャニーズアイランドが設立され、ジャニーが会長、引退したばかりの滝沢が社長になった。

 このとき、滝沢は「ジャニーズJr.に黄金期の景色を見せてあげたい」と言っている。その半年後にジャニーは世を去るが、ジュニアは再び充実のときへと向かいつつあったわけだ。

 それもあってか、ジャニーズファンの女性はこんなことを口にした。

「ジャニーさんが最期に見ていたかった景色って、高橋優斗がいるジュニアたちの姿だったなのかなって」

 これになるほどと、感じ入ったのである。

 つまり、ジャニーにとって最もアイドル的な存在とはおそらくデビュー組ではない。元気で可愛い少年が夢に向かって頑張る姿が好きだった彼は、デビューという夢をひとつかなえた少年より、まだ夢に届かないでいる少年のほうに愛着を持っていたのではないか。嵐を作る際、滝沢をそこに入れなかったのも、ジュニアの景色を大切にしたかったからとも考えられる。

 つまり、彼にとって「真の最高傑作」とはジャニーズJr.だった、ともいえそうなのだ。

 高橋優斗は「新たなフィールドで人生をかけた大きな挑戦をしていきたい」として退所。デビューしないまま、芸能界をあとにした。ファンはこれをジャニーズ潰しの影響によるものではと想像したり、ジャニーズが変わらざるを得なくなったことの象徴のように感じて落胆したりしたが、それでもジュニアという概念やシステムは引き継がれている。

「芸術は長く人生は短し」という言葉が今後、ジャニー喜多川とジャニーズJr.にも当てはまっていくのではないか。それを願いつつ、次回はこの『令和の怪談』シリーズの最終回である。

  

文:宝泉薫(作家、芸能評論家)

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宝泉 薫

ほうせん かおる

1964年生まれ。主にテレビ・音楽、ダイエット・メンタルヘルスについて執筆。1995年に『ドキュメント摂食障害―明日の私を見つめて』(時事通信社・加藤秀樹名義)を出版する。2016年には『痩せ姫 生きづらさの果てに』(KKベストセラーズ)が話題に。近刊に『あのアイドルがなぜヌードに』(文春ムック)『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、最新刊に『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)がある。ツイッターは、@fuji507で更新中。 


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