経済発展がもたらしたもの【森博嗣】連載「道草の道標」第12回 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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経済発展がもたらしたもの【森博嗣】連載「道草の道標」第12回

森博嗣 新連載エッセィ「道草の道標」第12回


森博嗣先生が日々巡らせておられる思索の数々。できるだけ取りこぼさず、言葉の結晶として残したい。森先生のエッセィを読み続けたい。なぜなら、自分の内から湧き上がる力を感じられるから。どれだけ道に迷い込み、彷徨ったとしても、諦めず前に進んでいけることができるから。珠玉の連載エッセィ「道草の道標」。第12回「経済発展がもたらしたもの」


 

 

第12回 経済発展がもたらしたもの

 

【いろいろ敗北している昨今】

 

 なにか新鮮な話題はないか、と考えて、世界情勢とか政治とか経済とか、そんな日本人が敬遠しがちな方向で書こうかな、と思ったものの、無理をしない方がよろしい、と思いとどまった。一旦思いとどまったものの、思い直して少しだけ書こうかな……。

 日本の首相が女性になった。これでは性転換か、と誤解を招くから、女性が首相になった、が順当な表現。その関連で国際情勢や政治・経済の話題がネットで増えている。個人的には、女性が財務大臣になったことの方がインパクトがあった。何十年か昔のことで恐縮だが、妻のことを「我が家の財務大臣」とジョークを飛ばす人が普通に多かったことを思い出す。あと、首相の発言に対して中国が反発しているようだけれど、日本のことをだいぶ買い被っているように感じた。念のために書くが、「買い被る」は「見損なう」の反対の意味。まあ、個人も国も、買い被られているうちが華だろう、と感慨。

 ちょっと背伸びをして無理やり(重複形容)世界情勢を傍観すれば、昨年だったか、「西洋の敗北(エマニュエル・トッド著)」という本が話題になった。ウクライナ問題であたふたするアメリカやEUには、確かに敗北感が漂っている。ロシアが一方的に非難される報道ばかりが伝わって数年が経過した。今にもロシア経済は破綻し、ウクライナの反撃攻勢が成就する、と語られること多数だったけれど、そのような目立った変化も兆候もなく、ただ犠牲者が増加する一方なのは嘆かわしい。

 あと、イスラエルのガザ侵攻もしばしば話題に上がっていた。卑劣なテロに対する報復とはいえ、あまりにもやりすぎの暴力的解決は、イスラエルという特殊な国家のアイデンティティになりつつあって、アメリカやヨーロッパにいる味方をだいぶ減らしたのではないか、という印象を受ける。

 大雑把なイメージとして、今世紀になって僕が感じているのは、「神の敗北」である。いい換えれば、「宗教の敗北」とも。長く世界を支配してきた神様が、いよいよ勝てなくなってきているように観察できる。神のために戦う振りをする人たちも依然としているけれど、本当のところ、うすうす勘づいているのではないだろうか。

 「経済の敗北」については、それ以前から予感し、最近では大いに確信している。アメリカの衰退の主原因もこれだろう。いわば経済という神、金融という宗教を信じて、ここ100年近く優秀な頭脳が集まったけれど、膨張し続けるものなんてこの宇宙には存在しないということくらい、予期できなかったのか? 予期していたのなら、刹那的だ。

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森博嗣

もり ひろし

1957年愛知県生まれ。工学博士。某国立大学工学部建築学科で研究をするかたわら、1996年に『すべてがFになる』で第1回「メフィスト賞」を受賞し、衝撃の作家デビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか、「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、また『The cream of the notes』シリーズ(講談社文庫)、『小説家という職業』(集英社新書)、『科学的とはどういう意味か』(新潮新書)、『孤独の価値』(幻冬舎新書)、『道なき未知』(小社刊)などのエッセィを多数刊行している。

 

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