素人デザイナー、5日間の徹夜作業をすべてムダにした「車輪」の正体【斉藤啓】
どーしたって装丁GUY 第5回
■真夜中の闖入者

その深夜も、東電広告の作業部屋ではあいかわらず作業が続きます。机にはデザインラフが道を見失ったまま広げられ、それを極力見ないように他の進められる作業を終えると、また朝までイラストを描き進めねばいけません。気力も体力ももう限界は近い。毎夜隣で作業のサポートをしてくれる営業のみっちゃんもうつらうつら。これはさすがにもうダメかも…、その時いきなり作業部屋のドアが勢いよく開いた!
「あれー斉藤ちゃーん!まだ仕事してんのぉ?」
と、アルコール臭をぷんぷんさせて機嫌よく登場したのは営業部きっての酒好きO野さん。
居酒屋やスナックをハシゴして酩酊したすえ、真夜中にコソッと会社に戻ってきたO野さん。おそらくオフィスチェアを並べてベッド替わりに爆睡し、翌朝いかにも早出してます感をかもし出しながらケロッとしてるつもりだったに違いない(恒例なので皆にはバレバレ)。不良社員というか一匹狼というか、ぼくから見たO野さんのイメージは「グルメ成分を抜いた美味しんぼ山岡」です。
思いがけず深夜に話相手ができたとばかりに、あの焼き鳥屋は味が落ちた、とか、あのスナックのママはなかなかの美人だ、とか好き勝手に喋り続けるO野さん。作業部屋のピリついた空気をまったく意に介してくれず、空き椅子にどっかと腰をおろしくつろぎはじめてしまった。早くどっかいって寝てくんないかな…
その時ふとO野さんは、机に散りひろげられた大型展示パネルのデザインラフに気づくと、ぐちゃぐちゃな怪文書のごときそれを一枚一枚じっくり眺め、急にシラフな口調でぼくに問いかけました。
「斉藤ちゃん、写植って知ってる?」

