素人デザイナー、5日間の徹夜作業をすべてムダにした「車輪」の正体【斉藤啓】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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素人デザイナー、5日間の徹夜作業をすべてムダにした「車輪」の正体【斉藤啓】

どーしたって装丁GUY 第5回


広告デザイン完全ド素人の斉藤氏に舞い込んだ大仕事。勢いで受けたはいいが作業は完全に停滞してしまい締め切りまであと5日間…それまでの苦労をすべて吹き飛ばしてしまった「車輪」とは?シリーズ「どーしたって装丁GUY」第5回。


■徹夜を止められない!

 

 

「斉藤さん、目の下のクマひどいですよ…ちゃんと寝れてますか?」

 1988年、東京都港区新橋。ここは東京電力本社会議室。目前に迫った秋のイベント(前回コラム参照)の詰めの打ち合わせ中に、サトウさんはこう言ってぼくの顔をのぞきこむ。

 サトウさんはイベントの実務担当で、ぼくら外注先の窓口役。明るくよく喋り、育ちがよいのか口元を隠して「オホホホ」と笑うのがちょいと公家みがあるアラサーの働き盛り。明らかに憔悴しきったぼくを見て彼は不安そう。

 イベントのブース・デザインすべてを任せられたド素人のぼくなわけですが、依然、ブース内に設置する大型展示パネルの作り方がどうしても「わからない」。仕上がりはハッキリ見えているのに、それを具現化するやり方がまったくわからない。我流で思いつく限りすべてのやり方でトライしても全然ダメ、連日連夜この繰り返しでもう5徹目のぼくはヘットヘト。サトウさんの不安は的中していました。

「大丈夫です!入稿までには必ずや…」、と息巻くぼくを無言で見つめるのは、東京電力のワタベ部長。本件の責任者であり、ぼくの父親と同世代であろう彼は、小柄で痩せた体に2サイズほど大きめのスーツを纏い、浅黒い顔は今日も苦虫を噛み潰したような表情。頭はキレるし仕事もできる頼もしい彼の沈黙がやけにおっかない。

 当時、東京電力は内田春菊さん描く「でんこちゃん」をマスコットキャラクターに押し出し、前身である電電公社の半官半民なおカタいイメージを風通しよく柔らかにしようと模索していました。思い切ってここは若くて元気なやつにまかせてみよう、もしかしたらワタベ部長はそんな腹づもりだったのかもしれません。

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斉藤 啓

さいとう けい

装丁家 グラフィックデザイナー アートディレクター

武蔵野美術大学視覚伝達デザイン科中退。有限会社ブッダプロダクションズ代表。メインのお仕事は書籍の装丁ですが、ファッションなどの広告や、企業団体のディレクションなどもやってます。たまにBDAP名義でアーティストも。ヒマな時は山登りかチャリ乗ってます。HIPHOPと麻婆豆腐が好き。ニューヨークADC Distinctive Merit。ニューヨークTDC、ニューヨーク・フェスティバル、ショーモン国際ポスターフェスティバル(仏)ほか国内外のデザインコンペティションで受賞多数。

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