自然と人工の割合について考える【森博嗣】連載「道草の道標」第11回 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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自然と人工の割合について考える【森博嗣】連載「道草の道標」第11回

森博嗣 新連載エッセィ「道草の道標」第11回


森博嗣先生が日々巡らせておられる思索の数々。できるだけ取りこぼさず、言葉の結晶として残したい。森先生のエッセィを読み続けたい。なぜなら、自分の内から湧き上がる力を感じられるから。どれだけ道に迷い込み、彷徨ったとしても、諦めず前に進んでいけることができるから。珠玉の連載エッセィ「道草の道標」。第11回「自然と人工の割合について考える」


 

 

第11回 自然と人工の割合について考える

 

【放っておいても季節は巡る】

 

 この2週間は毎日落葉掃除をしている。ブロアで吹き飛ばして落葉を集め、袋に入れて運びドラム缶で燃やす、という作業。ドラム缶は7機ある。落葉を詰める袋は1辺が80cmの立方体で、全部で22袋を使用。ブロアはガソリンエンジンだが、トータルで50リットルくらい消費する。だいたい量的にそれくらいの作業。最後には、すべて灰になるのだが、これは花壇の肥料として使っている。

 筋肉疲労が蓄積するものの、まあまあ健康を維持している。家族も犬たちも元気で、大きなトラブルはない。庭園内に野生の鹿が現れ、接触したらしく、鉄道の信号機が1つ倒されていた。エンジンブロアの吹き上がりが悪くなってキャブレタを分解して掃除した。あとは、溶接を数日行う工作があった。自動車は絶好調。新車の方は、アプリが自動更新されてバグが取れた。僕と奥様(あえて敬称)は、いずれもスタッドレスに履き替えた。

 森林というのは、秋の1週間ほどが輝かしく、見惚れるほど綺麗だ。放っておいてもこんな具合になる。そういえば、野生の花も短い期間だけ綺麗だし、樹木は成長して新緑を見せてくれる。人がなにかしようと無理に思わない方が素敵な結果になることがわりと多い。経済を成長させようなんて考えすぎるから、だんだん歪な世の中になるのでは?

 既に朝は氷点下だが、まだ霜が降りるだけで雪は降らない。毎日が秋晴れ。秋晴れだからよけいに寒い。でも、樹木が葉をすべて落とすと隅々まで日差しが届き、むしろ暖かく感じる。相変わらず、庭園鉄道はほぼ毎日運行している。

 幸せとか成功とか、そういう華々しい出来事もなく、毎日がほぼ同じことの繰返し。地味といえば地味。無難といえば無難。いつも少々の不満みたいなものを抱えている感覚があっても、それは「えっと、今はねぇ……」と考えないと出てこない。やりたいこと、夢見ていることも同様に、「そういえば、あれがあったかな……」くらいのゆるさでしか表出しない。つまりは、このような平坦さが、常識的な生き方なのかもしれない。放っておいても、日々が過ぎていき、知らないうちに季節は巡る。

 人間というのは、人工のものではなく、自然である。都会に住んでいると、周りはコンクリートや鉄やプラスティックでできた人工物ばかり。動いているもの、光っているもの、音を出すもの、ほぼすべてが人工。それどころか、身に着けているものも人工物で、自然の姿を見られないように覆い隠している。どういうわけか、自分たちだけが自然であり、その思考、運動、感情も、すべて自然に流された結果なのに、周囲を隈なく人工で埋め尽くし、唯一の非人工を見えないようにする、引け目を感じているかのように。

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森博嗣

もり ひろし

1957年愛知県生まれ。工学博士。某国立大学工学部建築学科で研究をするかたわら、1996年に『すべてがFになる』で第1回「メフィスト賞」を受賞し、衝撃の作家デビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか、「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、また『The cream of the notes』シリーズ(講談社文庫)、『小説家という職業』(集英社新書)、『科学的とはどういう意味か』(新潮新書)、『孤独の価値』(幻冬舎新書)、『道なき未知』(小社刊)などのエッセィを多数刊行している。

 

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