越境的専門誌『ワトソンJAPAN』と『GURU』【新保信長】 連載「体験的雑誌クロニクル」25冊目 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

越境的専門誌『ワトソンJAPAN』と『GURU』【新保信長】 連載「体験的雑誌クロニクル」25冊目

新保信長「体験的雑誌クロニクル」25冊目

 

 表紙のビジュアルが鉄人28号というのも法律雑誌のイメージを覆す。が、“いいも悪いもリモコン次第”の鉄人について〈鉄人、リモコン、正太郎君の関係を、警察、法律、国家というふうに置き換えて考えてみると、実に意味深である〉との解説にひざを打つ。2号目の表紙は手塚治虫のヒゲオヤジ、3号目は『ハレンチ学園』のヒゲゴジラ、4号目は『がきデカ』のこまわり君で、そのセレクトも絶妙に意味深だ。

 

『ワトソンJAPAN』(笠倉出版社)創刊1号~4号。洋モノポルノ雑誌『GENT』増刊として刊行されていた

 

 創刊号の特集は「反則」。夏の甲子園、接待、アダルトゲームソフトの摘発、エコロジー、ミステリー文庫の解説、敷金・礼金などのテーマについて「反則」をキーワードに識者が斬る。ちょっとテーマがバラバラすぎて特集としては散漫な印象を受けるが、主張したい気持ちは伝わってくる。「悪法の研究」「性の研究」「罪と罰」といった2号目以降の特集も、法律を日常レベルの興味と結びつけようという意欲は買える。

 架空の法律の成立過程をドキュメンタリータッチで描く連載「立法シミュレーション」は、この雑誌ならではの好企画と言えよう。初回は「大阪弁禁止法」。大阪のうどん屋の息子から自民党総裁にまで上り詰めた梅田幸之助首相が、国連総会で「儲かりまっか」と失言したことに端を発し、バカヤロー解散ならぬ「アホ解散」、猛虎派(阪神ファン)の暴動などの事件を経て、大阪弁禁止法成立に至る。架空の新聞紙面をあしらうなど凝った作りの記事は、バカバカしくも皮肉が利いて苦笑を誘う。

 これが好評だったのか、2号目の「ダイエット禁止法」は巻頭に昇格。架空の『anan』が「今年は夏までに絶対太る」という特集を組んでたりして、これまた可笑しい。3号目の「性交税法」では「性交税法をご理解ください。」と訴える政府広報のパロディや「国性調査」「性交免許制の導入」「性交税申告書(通称・桃色申告)」などの用語に思わず噴き出す。4号目の「自衛隊分割・民営化」も実にシャレが効いている。宮武外骨の「滑稽新聞」から現代の「虚構新聞」の系譜に位置づけられる企画だろう。

 

『ワトソンJAPAN』(笠倉出版社)3号「立法シミュレーション3 性交税法」p38-39より

次のページ同誌の顔となった人気連載・いしかわじゅんの「鉄槌!!」

KEYWORDS:

オススメ記事

新保信長

しんぼ のぶなが

流しの編集者&ライター

1964年大阪生まれ。東京大学文学部心理学科卒。流しの編集者&ライター。単行本やムックの編集・執筆を手がける。「南信長」名義でマンガ解説も。著書に『国歌斉唱♪――「君が代」と世界の国歌はどう違う?』『虎バカ本の世界』『字が汚い!』『声が通らない!』ほか。南信長名義では『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『1979年の奇跡』など。新刊『漫画家の自画像』(左右社)が絶賛発売中です!

この著者の記事一覧

RELATED BOOKS -関連書籍-

食堂生まれ、外食育ち
食堂生まれ、外食育ち
  • 新保信長
  • 2024.07.05
メガネとデブキャラの漫画史
メガネとデブキャラの漫画史
  • 南信長
  • 2024.04.25
メガネとデブキャラの漫画史
メガネとデブキャラの漫画史
  • 南信長
  • 2024.04.25