厭世的セックスのすすめ。性の多様化と新しい愛のカタチ【適菜収】 連載「厭世的生き方のすすめ」第17回
【連載】厭世的生き方のすすめ! 第17回
人間のセックスはなぜここまで多種多様なのか? セックスは生産的な明るい側面ばかりではない。そこには、暗く、歪で、陰惨で、業としか言いようのない哀しみもある。われわれは単なる快楽の追求だけではないセックスにたどり着くことはできるのか。時代を鋭く抉ってきた作家・適菜収氏が「厭世的なセックス」について語った。連載「厭世的生き方のすすめ」では、狂気にまみれたこのご時世、ハッピーにネガティブな生活を送るためのヒントを紹介する。

◾️人間と動物のセックスの違い
セックスの本来の目的は子孫を残すことである。一般に男は若くて綺麗な女性を好む。これは本能によるものだ。ゲーテは言う。「たとえば、年ごろの娘の自然の使命は、子供を生み、子供に乳を与えることだから、骨盤の広さが十分でなかったり、乳房が相当ふくらんでいなかったりすると、美しいとはいえないだろう。ところが、それが度を越しているのも、美しくはない。それは、合目的性を通り越してしまうからね」。
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つまり、おっぱいは小さすぎても大きすぎても駄目ということだ。しかし、貧乳好きも巨乳好きも世の中には存在する。他の動物と違い、人間は本能だけでは動かない。合理的にも動かない。人間のセックスは、ほとんどの場合、子孫を残すのが目的ではなく、単なる快楽を求めるものである。こうして、本能から外れた性衝動は多種多様になっていく。
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そう考えると、「厭世的なセックス」が成立する余地があるのではないか。セックスは相手がいなければ成立しない。つまりそれ自体社交的なものである。だから、「厭世的なセックス」というのは矛盾しているようにも見える。しかし、厭世的な気分に浸りながら、嫌々セックスするのは可能だ。それどころか、多くの人は日々の生活に疲れ果て、世をはかなみながらセックスしているのではないか。そこでいくつか「厭世的なセックス」を考えてみた。
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【歳の差カップルの場合】愛媛県宇和島市内の老人ホームで30歳の男が入所中の90代の女性にわいせつな行為をし、その様子を撮影したとして逮捕された。東京都内の介護施設では介護職員25歳が、入所中の70代女性のベッドにもぐりこみ、体を触って逮捕された。性犯罪は許されることではないが、それがきっかけで恋が芽生えたら陰惨である。
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【体重差カップルの場合】100キロの女が乗り、50キロの男は圧死。腹上死の反対。
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【虚弱体質のカップルの場合】セックス中に脱臼する。
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【口が悪いカップルの場合】男「お前、本当にブスだね」。女「あんたもすごくブサイクよ」。罵りあいながらセックス。
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【しんみりするセックス】ピロートークが老後の話。
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【コミュニケーション不全のセックス】「外に出して!」と言われた男が、急いでベランダに出て外に出してしまう。
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【貧乏なカップルのセックス】動くとおなかが減るので、早めに切り上げる。
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【難聴のカップルのセックス】「そろそろイっていい?」「え、なんだって?」。話がかみ合わない。
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【痴呆系カップルのセックス】セックスの途中でなにをしていたか忘れてしまう。
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こう見てくると、「厭世的なセックス」が成立する余地は十分にあると思う。
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