落ち着いているつもりなのに【森博嗣】新連載「道草の道標」第10回
森博嗣 新連載エッセィ「道草の道標」第10回
【慌てないように生きていく】
親はもういないので、僕に注意をする人は今は奥様(あえて敬称)くらいになった。その彼女も、人にとやかくいわれたくない性格で、他者にもとやかくいいたくない、とお考えのようだ。だから、ほとんど注意を受けない。穴のあいた靴下とかを「早く捨てなさい」といわれる程度。近くのものが見えていないことも、ときどき指摘される。こういうのを昔は「秋めくら(ワープロが変換してくれない)」といったものだが、僕は子供のときに散々こう呼ばれた。僕は文字を読み間違えるし、書くと必ず誤字がある。
工作で何度怪我をしたことか。最近でも1年で5、6回はバンドエイドを使う。これは危ないぞ、とわかっていてもつい怪我をしてしまう。庭仕事でも怪我をするが、棘がある植物のせいだ。それでも、成人以前に大きな怪我はだいたい体験済みなので、さすがに注意深くなった。血を見るのが苦手で、貧血になりそうなくらい怪我に弱いので、とにかく危険なことを避け、石橋を叩いて生きてきた。
2人の子供たちにも、僕の性格が受け継がれているようで、大いに心配している。奥様の血を引き継いでもらいたかったが、うまくいかないものだ。
ちなみに、自動車の運転では、自分のそそっかしさが今のところ封印されている。やはり自覚しているから、ドライブするときは運転に集中しよう、というモードになるためだろう。運転のことしか考えないし、ラジオも音楽も聴かない。ぶっつづけで何時間も運転しない(せいぜい2時間が限界)。というわけで、これまで一度も自分からぶつかったことはない。保険で修理をしたことは過去に3回しかなく、そのいずれもが相手の保険から全額出してもらえた。
ここ10年間での最大の怪我は、荷物を運んでいて庭の切株につまづいて転んだときくらいである。奥様(あえて敬称)は、布団を抱えてデッキで足を踏み外し、1カ月間杖をついていたから、今の僕は比較的安心安全である。頭がぼけてきて、ちょうど良い演算速度になったことも幸いしている、と解釈できる。
人それぞれ、持って生まれた性能がある。無理に変えようとせず、持ち駒を生かす戦術をおすすめするし、そもそもそれ以外の戦術はない。慌てん坊で怪我が多くても、自動車の運転は普通にできた、というだけの話だが。

文:森博嗣
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