「辞めジャニ」ツートップ、郷ひろみと田原俊彦に会ったときのこと。そして感じる、現代の闇深さ【宝泉薫】「令和の怪談」(9) |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「辞めジャニ」ツートップ、郷ひろみと田原俊彦に会ったときのこと。そして感じる、現代の闇深さ【宝泉薫】「令和の怪談」(9)

「令和の怪談」ジャニーズと中居正広たちに行われた私刑はもはや他人事ではない(9)【宝泉薫】


曖昧な告発と世間の空気によって犯罪者にされたジャニー喜多川と、潰されてしまった事務所。その流れは、今年の中居正広、さらには国分太一をめぐる騒動にも引き継がれている。悪役を作って叩きまくる快楽。しかし、その流行は誰もが叩かれる対象になる時代の到来ではないのか。そんな違和感と危惧を、ゲス不倫騒動あたりまで遡り、検証していく。第9回は「『辞めジャニ』ツートップ、郷ひろみと田原俊彦に会ったときのこと。そして感じる、現代の闇深さ」


田原俊彦

 

第9回 「辞めジャニ」ツートップ、郷ひろみと田原俊彦に会ったときのこと。そして感じる、現代の闇深さ

 

 「辞めジャニ」こと、ジャニーズ事務所を退所した芸能人たち。最近では珍しい存在でもなくなったが、かつてはそれだけで退所後の動向、すなわち生き残り方が注目された。

 なかでも劇的だったのが、田原俊彦のケースだ。ドラマ『3年B組金八先生』の第一シリーズ(197980年)でブレイクして以来、10数年にわたって第一線で活躍したが、94年、長女誕生の会見を機に失速。

 「何事も隠密にやりたかったけど、僕ぐらいビッグになっちゃうとそうはいきません」

 というジョークが反感を買い、バッシングに見舞われた。その直後に本格的な独立をしたことで、サポート体制も弱くなり、仕事が激減してしまう。この状況が長く続いたため「辞めジャニの悲劇」を象徴する存在となってしまった。 

 そんななか、筆者は復活するための奥の手を考えたことがある。2003年に出た『音楽誌が書かないJポップ批評23 みんなのジャニーズ』でのこと。錦野旦(にしきのあきら)が「スターにしきの」として再浮上したように「アイドル」を戯画化したトリックスターをやってみては、と勝手に提案してみた。それこそ「赤いポシェットを首にぶら下げながら『NINJIN娘』を歌い踊れば、ウケること間違いなし」というわけだ。

 もちろんジョークだが、この戦略がうってつけな理由をこう書いた。

 「(デビューから数年間の)彼ほど『アイドル』に必要な要素を持ち合わせていた人間は他に存在しないから。それは『歌が下手』とか『バカっぽい』とか『自意識過剰』とか、一見すると負の要素ばかりだったりするものの、こうした要素がひと塊になったとき、えもいわれぬ輝きを発する。アイドルの醍醐味とはそういうものだろう。さらに誤解を承知で言えば『ルックス』と『媚び』くらいしか能がないと見くびっているからこそ、世間は『アイドル』を許容する。小動物を可愛がるのと同じ気分で、大した実力もないくせにと侮りつつ、むしろそれゆえにニクめなさを感じてしまうのだ。すなわち『歌が下手』とか『バカっぽい』というイメージが強烈なほど、世間はその過剰なナルシシズムも一種の魅力として認知するに至る。当時のトシちゃんが無敵だったのは、つまりはそういう道理なのである」

 こうしたアイドル独特の魅力については、吉本ばななも「たとえ他人が作った信じられないくらい内容のない歌を、びっくりするくらい下手くそに歌っていても、どうしても『本人』が輝いてしまうところ」だと書いている。まさに、田原のことを言っているようでもあり、彼こそが「THEアイドル」なのだ。

 ただ、幸か不幸か、彼はここから少し飛躍を遂げてしまう。ドラマ『教師びんびん物語』とその主題歌のダブルヒットにより、アイドルを超えた国民的人気者に。世間はその姿に、弱っちい小動物が百獣の王に進化したような奇蹟を見て、当初は拍手喝采でもてはやしたものだ。

 しかし、前出の「ビッグ発言」により、反動が起き、彼は百獣の王にはなりきれないまま失速した。そのあたりについて『Jポップ批評』ではこんな考察をしている。

 

  「じつは当時(90年)彼を取材する機会に恵まれた。媒体は『週刊明星』で、テーマは歌手・田原俊彦の歴史。自らヒット曲を的確に分析する口ぶりはけっしてバカっぽくはなかったが『It’s BAD』を作曲した久保田利伸について『「こいつは、オレの曲書くために生まれてきたんじゃないか」って思うくらい、ハマったんだよね』とか、その後、マイケル・ジャクソンが『BAD』というアルバムを発表したことについて『オレのほうが先なんだから』とハシャぐ姿は、まぎれもなく『トシちゃん』だった。そんな、ともすれば子供じみて見える『自意識過剰』ぶりは、これから大スターとしてやっていくには少々危なっかしく思えたものだ」

 

 この時点で彼が、大スターにふさわしい貫禄もしくは謙虚さを身につけることができていれば、ああいう失速はせずに済んだだろう。

 とはいえ、失速後、地道な活動を重ねて復活。しばらく表舞台から消えていたおかげで「生きた化石」のように、昭和のアイドルの輝きを体現してみせている。ジャニーズの歴史においても、ソロとしては最高の成功例。ジャニー喜多川に対する敬意や感謝も公言していて「辞めジャニ」のなかでも清々しい生き方が印象的だ。

次のページ田原が登場したとき、先輩としてのライバル意識を見せていたのが郷ひろみだった

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宝泉 薫

ほうせん かおる

1964年生まれ。主にテレビ・音楽、ダイエット・メンタルヘルスについて執筆。1995年に『ドキュメント摂食障害―明日の私を見つめて』(時事通信社・加藤秀樹名義)を出版する。2016年には『痩せ姫 生きづらさの果てに』(KKベストセラーズ)が話題に。近刊に『あのアイドルがなぜヌードに』(文春ムック)『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、最新刊に『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)がある。ツイッターは、@fuji507で更新中。 


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