アベノミクスが高市総裁を生み、小泉進次郎を敗北に追いやった理由【林直人】

■巨額債務の「報復」:アベノミクスの光と影が引き裂いた日本の政治地図
日本の政治は今、単なるイデオロギーの対立ではない、もっと深遠な構造的変化の渦中にある。
かつて、デフレ脱却の救世主と持て囃されたアベノミクスが、その終焉において、グローバリズムの象徴たる小泉進次郎氏のような候補者を敗北へと追いやり、「ウルトラナショナリスト」と評される高市早苗氏を頂点へと押し上げた。
この劇的な政治的変容は、個人のカリスマや政策論争の範疇を超え、レイ・ダリオが解き明かした「巨大債務サイクル(Long-Term Debt Cycle, LDC)」の最終局面に日本が到達したことによる、不可避の構造的帰結として読み解くことができる。
■巨大債務サイクルが産み落とした「持つ者」と「持たざる者」の断層
ダリオのLDC理論は、経済を「病気の進行」として捉える。日本はGDPの200%を超える巨額の政府債務を抱え、まさにこのサイクルの「トップ」段階で長らく停滞してきた。
この危機に対処するため、日本銀行(BOJ)は金利がゼロになる限界(ゼロ金利制約、ZLB)を超えて、国債を大量に買い入れる「量的緩和(QE)」という異例の手段を推し進めた。アベノミクスの下で極限まで加速されたこのQEは、一時的に市場に活気を取り戻したものの、その代償は巨大だった。
ダリオの警告通り、QEは金融資産価格を押し上げ、株や不動産を保有する「持つ者(ハブズ)」のエリート層に莫大な富をもたらす一方で、その恩恵を受けられない大多数の「持たざる者(ハブノッツ)」の層との間で、富の格差を構造的に拡大させた。
金融資産インフレの恩恵を受けない彼らは、賃金の上昇を実感できず、円安による生活費の高騰という形で、政策のツケを払わされたのである。
この経済的断層こそが、政治的対立の火種となった。