高市早苗総裁時代に突入。地獄の中で、ささやかな喜びを見つける方法【適菜収】
【連載】厭世的生き方のすすめ! 第13回
時代を鋭く抉ってきた作家・適菜収氏。当サイト「BEST T!MES」の長期連載「だから何度も言ったのに」が大幅加筆修正され、単行本『日本崩壊 百の兆候』として書籍化された。連載「厭世的生き方のすすめ」では、狂気にまみれたこのご時世、ハッピーにネガティブな生活を送るためのヒントを紹介する。世の中にうんざりしてる人に、適菜氏が説く連載第13回は「高市早苗総裁時代に突入。地獄の中で、ささやかな喜びを見つける方法」。

◾️総裁選より「ヘア論争」
2025年10月4日、高市早苗が自民党総裁に選ばれた。高市は選出後の挨拶で、自民党議員に対し「馬車馬のように働いていただきます」と呼びかけ、さらに「私自身もワーク・ライフ・バランスという言葉を捨てます」「働いて、働いて、働いて、働いて、働いてまいります」と発言。
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「休日返上?」。アホか。じゃ、私は「平日返上」で。
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私は昨年の暮れに体調を崩し、仕事の量を減らした。仕事をしなくなった理由はそれだけではない。なにかいろいろ「飽きて」しまったのだ。人間社会にも飽きた。馬面も嫌だ。だから、なるべくなにもしないようにしている。
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知り合いの編集者から聞いた話だが、昔の人は電車やバスに乗っているとき、特になにもせずに、口を半開きにしてぼんやりしていることが多かったという。実際に見たわけではないので、本当かどうかはわからないが、ほとんどの乗客がスマートフォンを凝視しているような状況でなかったのはたしかである。
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現代人は、常になにかをしている。なにかをしていないと不安なのだ。それで無理やりスケジュールを組み、手帳のカレンダーを埋める。しかし、心は空虚である。なぜなら、世の中で本当にしなければならないことは少ないからだ。
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せっつかれるような生活から逃れるためには意識的に無駄なことをしたほうがいい。電車に乗っているときは、なるべく武田久美子みたいに口を半開きにする。無駄に寝すぎるのもいい。10時間くらい寝た後に、二度寝する。お茶を飲むのに2時間、風呂に入るのに2時間かければ、だいたい一日が終わる。
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なにをすれば一番無駄かと考えたことがあるが、なかなか難しい。あやとりやはさみ将棋は頭の体操になってしまうし、流しそうめんはハードルが高すぎる。この連載で述べたように、私はぶどう狩りには否定的だが、あえて家族でぶどう狩りに行き、嫌な気持ちになって帰ってくるのもいい。
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今、正月に福笑いをやる家庭はどのくらいあるのだろうか。あれも無駄である。私は以前「友近福笑い」という遊びを考案した。普通の福笑いと同じだが、目や鼻、耳などの各パーツは友近のものを使う。某編集部にこの企画を出したら「人の顔で遊ぶのはよくない」と言われた。たしかにそのとおりだが、やったらやったで、すごく面白いと思う。
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なにをやったら無駄かと考えている時間が一番無駄なのかもしれない。
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「人生を無駄にしないほうがいい」というのは正論だ。しかし、人生の大半は無駄であり、徒労である。石を積み上げると鬼に壊されるという賽の河原の話がある。ギリシャ神話にも同じような話がある。アルベール・カミュはそれを題材に『シーシュポスの神話』を書いた。昔の日本人の性的コンテンツを手に入れる労力もそれに似ている。彼らは苦労して高価なビニ本や裏ビデオを入手し、どこか納得のいかない自分をごまかしながら、三流のコンテンツで充足していた。自己欺瞞である。しかし、今の時代なら小学生でも数秒で優良コンテンツにたどり着く。
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昔、「ヘア論争」というのがあった。陰毛がわいせつかどうかという議論だが、まさに不毛である。だから、あらためて「ヘア論争」を始めるのもいい。
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今でもはっきり覚えているが、約30年前、大学の入学式で配られた書類の中に、「在校生から新入生への案内」みたいな小冊子が入っていた。パラパラめくると、「山手線一周の僕の小旅行」という在校生の文章が載っていた。「入場券を買って電車に乗れば、格安で山手線を一周できる。車窓の景色を見ているだけで楽しい」と。私はそれを読んで暗い気持になった。なにが小旅行だ。くだらないにも程がある。反吐が出る。死ね。地獄に落ちろと。しかし、今となってはわからないでもない。お猿の電車と同じだ。誰もが同じ場所をぐるぐる回っているのだ。仏教でいう無間地獄である。
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