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「解く」ではなく「作る」【森博嗣】新連載「道草の道標」第8回

森博嗣 新連載エッセィ「道草の道標」第8回


森博嗣先生が日々巡らせておられる思索の数々。できるだけ取りこぼさず、言葉の結晶として残したい。森先生のエッセィを読み続けたい。なぜなら、自分の内から湧き上がる力を感じられるから。どれだけ道に迷い込み、彷徨ったとしても、諦めず前に進んでいけることができるから。珠玉の連載エッセィ第4弾「道草の道標」。第8回は「『解く』ではなく『作る』」


 

 

第8回 「解く」ではなく「作る」

 

【ノルマと問題の違いについて】

 

 9月の終わりにこれを書いている。ゲストハウスのサンルームの工事に1カ月を要した。ずっと体調も良好で、つぎつぎと工作の店を広げ、あれもこれもと手を出し、同時に、やらなければならないな、と懸案だった問題も幾つか片づけた。楽しいペンキ塗りもできたし、旋盤も回したし、溶接もしたし、ネジも切り、カンナもかけ、模型エンジンも30回くらい始動し、クラシックカーも好調で、犬たちも元気。そして、落葉が増えてきたから、収集や焼却の作業がそろそろ始まる。そんなシーズン。

 今現在、僕が不思議に思っていて、どうしたら良いのか、どうなっているのだろう、はたしてこれは解決できるのか、と頭を悩ませている問題が、主なもので20くらいある。そのそれぞれから派生した問題、あるいは調べたい事項が60ほどある。僕はそれくらい問題を抱えている。しかも、このように問題を抱えている状況が、僕は好きだ。ときには、あまりに楽しくなり、大きめのポストイットに問題を絵で箇条書きして、モニタに貼ったりする。解決したら、ひとつずつ消していける。いわゆるToDoリストである。

 ノルマではないし、もちろん締切もない。誰かから押しつけられた問題ではない。ただ、自分が思いついたもの、多くは工作の過程で発生するトラブル、または、ふと思いついた疑問、新しそうな技術、自分の役に立ちそうな課題、楽しそうだから試してみたいこと、などである。

 ノルマというのは、問題とは違う。ただ、労働を提供する、時間的拘束がある、というだけで、問題を抱えているわけではない。何故なら、答がある。ノルマは、やれば終わる。やるだけで良い。仕事の大部分は、おおよそこの類のものであって、出勤するのがいやだとか、体調不良でやりたくないとか、いかにも問題を抱えているような気分にさせるけれど、方法も答も既知である。難しいと思い込んでいる場合もあるけれど、やり方は決まっていて、何をすれば良いのかも明確に提示されている。

 「問題」というのは、何をすれば良いかを問われている状況だ。どんなに複雑であっても、面倒で時間が必要でも、やることがわかっているものは、問題ではない。仕事でも、少し出世をして人に指示をする立場になると、ノルマから問題へシフトする。上からは、抽象的な問題を与えられる。たとえば、「業績を上げろ」といわれた場合、何をすればその問題が解決できるかを考えなければならない。何をどうするのかを具体的に指示する立場になるのだ。ノルマを抱えていれば肉体的に忙しく、問題を抱えていれば頭脳的に忙しい、といった違いがある。どちらが苦しく、どちらが楽しいかは、人によって異なるだろう。たまたま、僕は問題を抱えることが好きで、頭を悩ませる難題があると、どういうわけか楽しくなってしまう。そんなふうにこれまで生きてきた。

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森博嗣

もり ひろし

1957年愛知県生まれ。工学博士。某国立大学工学部建築学科で研究をするかたわら、1996年に『すべてがFになる』で第1回「メフィスト賞」を受賞し、衝撃の作家デビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか、「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、また『The cream of the notes』シリーズ(講談社文庫)、『小説家という職業』(集英社新書)、『科学的とはどういう意味か』(新潮新書)、『孤独の価値』(幻冬舎新書)、『道なき未知』(小社刊)などのエッセィを多数刊行している。

 

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