『BRUTUS』おまえもか!【新保信長】 連載「体験的雑誌クロニクル」22冊目
新保信長「体験的雑誌クロニクル」22冊目
そうしたケレン味と香気を放つ『BRUTUS』は、憧れの雑誌のひとつだった。そこで仕事をする機会を得たのは、フリーになって3年目のこと。社員編集者時代はもっぱら雑誌を作っていた私が、会社を辞めて初めて手がけた単行本がマガジンハウスから出た『失楽園物語』(文:板橋雅弘・写真:岩切等/1992年)というやつで、その担当者に『BRUTUS』の編集者を紹介してもらったのがきっかけだ。
317号「空想美術館へようこそ!」(1994年5月1日号)の特集内企画「不快で愉快な『悪趣味の世界』展。」で、案内人役の荒俣宏氏に話を聞き、原稿にまとめる。さらに「人には言えない、私の悪趣味。」と題したコーナーで、サエキけんぞう、清水ミチコ、山口文憲らにインタビュー取材もした。当時、『世界大博物図鑑』執筆中で「平凡社に住んでいる」と言われていた荒俣氏を同社に訪ねたのは、いい思い出になっている。あと、まったくの余談ではあるが、その2年後にとある単行本仕事の関連で、某社の社長の熱海の別荘で荒俣氏と角川歴彦氏と一緒に風呂に入ったこともある。それはそれでいい思い出だ。
特集全体では、ピエール&ジルや赤塚不二夫、岡崎京子らの著名人キュレーションによるメイン企画展よりも、人体、器具、瓶詰め、足などをテーマとした「禁断の展示室」の怪しさ、グロテスクさのほうが個人的にはツボだった。中ハシ克シゲ、八谷和彦、小沢剛、明和電機といった当時の新進気鋭の現代アーティストを紹介した「ボーダーライン上の芸術家たち」も面白い。同系統の特集としては、337号「インモラル図書館へようこそ!」(1995年3月15日号)も充実していたと思う。

その後はほとんど関わる機会がなく、近年になって「マンガ解説者・南信長」としてコメント取材を受けたりする程度だが、創刊から現在に至るまで、気になる特集の号は買ってきた。バブル崩壊後も、上記の特集や296号「やっぱり贅沢は素敵だ!」(1993年6月1日号)のように、そこそこバブリーというか浮世離れした特集を組んでいた『BRUTUS』であるが、やはり時代とともに変化も見られる。
ひとつは読者対象年齢の低下。もともと『POPEYE』を卒業した「大人の男」を対象として創刊されたはずだが、ホイチョイ・プロの4コマが表紙の392号「男と女のホテルランキング」(1997年8月15日号)なんかは、本来『POPEYE』でやるような内容だ。もっとも、雑誌読者は放っておくと高齢化していくので、生き残り戦略としては正しいのかも。
2000年代は、企業タイアップ的なものも含め、いろんな仕掛けが目についた。474号「ソニーが家を作ったよ!?」(2001年3月15日号)は、丸ごとソニーの広告のよう。458号「ナゼ? ナニ! 男のブライダル」(2000年7月1日号)と題した結婚特集は、記事よりジュエリーの広告が目立つ。471号「あなたが誰かを助けてる。」(2001年2月1日号)は「この一冊で百円寄付。」と表紙に記されたボランティア特集。450号「求人情報。」(2000年3月1日号)では本当の求人情報を掲載しているのだが、「サルデーニャ島の羊飼い」「南仏のジャスミンの花摘み」なんてのばっかりで、ちょっと笑った。