『BRUTUS』おまえもか!【新保信長】 連載「体験的雑誌クロニクル」22冊目
新保信長「体験的雑誌クロニクル」22冊目
究極の仕掛けは、466号「約束建築」(2000年11月1日号)だ。「安藤忠雄があなたの家を建ててくれます。」と表紙に打たれているように、安藤忠雄を含む10人の建築家に個人住宅の設計依頼をできるという企画。所有する土地の住所や面積、予算を記入する欄のある応募ハガキも付いている。結果がどうなったのか知らないが、2015年に同様の企画でリノベーション希望者を募集しているところを見ると、収まるところに収まったのだろう。あざといといえばあざといが、ここまでやればいっそ清々しくもある。
ここ10年ぐらいは、本、マンガ、映画、音楽、アート、食、住宅、ファッション、旅、犬猫といった身近で手堅いテーマを、ぐるぐる回している感じ。冒頭で述べた「特集・夜」「やさしい気持ち。」のように、たまに毛色の違うものはあるが、思わず二度見するような突拍子もない特集はなくなった。それは、同じ1980年創刊の『Number』(文藝春秋)にも共通することで(【3冊目】参照)、つい「『BRUTUS』おまえもか!」と言いたくなる。
コスパ重視の時代に役に立たない意味不明の特集はウケないだろうし、今どき「悦楽」だの「逸脱」だのが流行らないのは承知だが、「無用の用」という言葉もある。年に1冊ぐらいは「『BRUTUS』狂ったか!」と言いたくなるようなイカれた特集が見てみたい。
文:新保信長