若者と年寄りはどこがどう違う?【森博嗣】新連載「道草の道標」第6回
森博嗣 新連載エッセィ「道草の道標」第6回
【機械に気を遣う年代】
奥様(あえて敬称)がガーデニングで使っているキャリィカー(荷物を運ぶカート)のタイヤがバーストしていることに先日(僕が)気づいた。しかも、軸が錆びているのかキィキィと煩い。少し預かって調べたら、タイヤの3つがゴムに亀裂があり、1つの軸受は固着寸前だった。この状況で使うことが異常である。彼女は、以前にローバのミニクーパに乗っていて、前輪を交差点でバーストさせたことがある。幸い1kmほどのところに行きつけの工場があり、そこまでなんとか走っていって直してもらったらしい。バーストしたまま走るか、と僕には信じられない状況だ。そもそも、そうなるまえに気づけたはず。
機械の仕組みを知らない人は、小さな異常、たとえば異音とか、ちょっとした抵抗とか、を見逃す。スイッチを入れても動かない、もう一度やり直したら動いた、という場合でも、そのまま使い続ける。こうして、のちのち大きな故障が生じて、なんともならなくなってしまう。ちょっとした不具合を見逃さない使い方をしていれば、長く機械の好調を維持できるのだ。
これは、自分の体調にもいえることかもしれない。不具合があっても、寝たら治ったとか、薬を飲んだら良くなった、と異状を見逃し、のちに大病になることがある。もっとも、生き物は自然に治癒する能力を持っているから、これでなにごともなく終わる可能性がある。だが、機械はけっして自然に良くなることはない。
ドアが閉まりにくくなった、自動車でいつもと違う音がする、水回りやガス関係でも、ちょっとコツが必要な状況になる、といった不具合には、必ず原因があって、調べて早めに直した方が良い。放置して自然に改善することはなく、いつか致命的な結果が訪れる。
しかしながら、このようなことを指摘するのは「老婆心」というものかもしれない。たとえば、奥様のキャリィカーは、タイヤの4つを部品として購入する値段で、新しいものを買えることが判明し、ネットで新品を注文してすぐに届いた。今の若者たちは、機械の仕組みなんか知らなくても、使えなくなったらネットで注文すれば翌日新しいものが届くから、つまり致命的な結果は訪れないのだ。直すより買い替える方が安く済む世の中になってしまったので、難しいことを考える必要はない。本当にそのとおり。時代は変わったのだから、老人は黙っていた方がよろしい。
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