自衛隊に参政党の影? 圧倒的組織票を抱えていた「ヒゲの隊長」が2025年参議院選挙で落選した理由(2)【林直人】
◆データが暴いた衝撃の真実――自衛官票が参政党を押し上げた「統計的証拠」
3.1 データと方法論――隠された票の流れを暴く
我々は2025年参院選の投票行動を、冷徹な数字で解剖した。対象は全国1,741市区町村、総務省発表の公式データである。比例代表票に絞り込むことで候補者人気の“ノイズ”を排除し、政党支持の本質をむき出しにした。
核心はただ一つ――若年自衛官の集中度(young_jsdf_ratio)。
これは単なる統計指標ではない。全国の駐屯地・基地の位置を洗い出し、部隊編成から隊員数を推定し、さらに年齢分布を反映させて導き出した“生々しい数字”だ。つまり「どの自治体に、どれだけ若い自衛官が住んでいるか」を示す隠された座標である。
そして我々は、この変数を人口密度、年齢構成、所得水準、産業構造といった要素で厳密に統制した。つまり「ただの田舎だから」「ただの低所得地域だから」といった言い訳は通用しない――データは純粋に“自衛官票の効果”をあぶり出す。
3.2 地図が告げる“赤信号”――参政党得票率のホットスポット
次に我々は、全国の参政党得票率を地図に叩きつけた。その上に自衛隊施設を重ねると――戦慄の事実が浮かび上がった。
・北海道・千歳市――航空自衛隊の拠点の街で、参政党支持が周辺より急伸。
・神奈川県・横須賀市――海上自衛隊の要衝で、自民党の影が薄れ、参政党が存在感を増す。
・長崎県・佐世保市――米軍基地との隣接地で、ナショナリズム票が爆発的に参政党へ流入。
これは単なる偶然か? いや、統計がそう叫んでいるのだ。
さらに、記述統計は冷酷な変化を突きつけた。
2022年――参政党の比例得票率は平均1.85%、最大8.54%。
2025年――その数値は軒並み上昇し、全国的な支持基盤の拡大と“基地の街”での深化を同時に証明した。
つまり参政党は、自衛官の街を足掛かりに全国規模の反乱を組織したのである。
表1:市区町村レベル変数の記述統計量(2025年)
変数名 |
観測数(N) |
平均値 |
標準偏差 |
最小値 |
最大値 |
従属変数 |
|||||
参政党得票率 (%) |
1,741 |
3.52 |
1.98 |
0.45 |
11.21 |
自民党得票率 (%) |
1,741 |
32.15 |
9.22 |
9.88 |
61.05 |
主要な独立変数 |
|||||
若年自衛官人口比率 (%) |
1,741 |
0.08 |
0.45 |
0.00 |
7.98 |
統制変数 |
|||||
人口密度 (/km2) |
1,741 |
452.1 |
1,535.6 |
1.1 |
21,580.2 |
年齢中央値 (歳) |
1,741 |
52.8 |
4.9 |
38.9 |
68.9 |
男性人口比率 (%) |
1,741 |
48.6 |
1.5 |
44.1 |
55.0 |
所得中央値 (万円) |
1,741 |
288.9 |
56.1 |
182.3 |
655.4 |
第一次産業従事者比率 (%) |
1,741 |
9.9 |
9.7 |
0.1 |
54.8 |
東京からの距離 (km) |
1,741 |
480.6 |
350.2 |
5.1 |
2,050.7 |
3.3. 多変量回帰分析
本稿の仮説を統計的に厳密に検証するため、最小二乗法(OLS)を用いて以下の2つの重回帰分析モデルを推定する。
・モデル1(参政党):
Sanseito_Vote_Sharei=β0+β1(young_jsdf_ratioi)+β2(Controlsi)+ϵi
・モデル2(自民党):
LDP_Vote_Sharei=β0+β1(young_jsdf_ratioi)+β2(Controlsi)+ϵi
ここで、i は各市区町村を示し、Controls は前節で定義した統制変数のベクトルである。我々の最大の関心は、主要な独立変数 young_jsdf_ratio の係数 β1 にある。モデル1において β1 が正で統計的に有意であればH1が支持され、モデル2において β1 が負で統計的に有意であればH2が支持されることになる。分析結果を表2に示す。
表2:2025年参院選比例代表得票率に対するOLS回帰分析の結果
(1) 参政党得票率 |
(2) 自民党得票率 |
|
主要な独立変数 |
||
若年自衛官人口比率 (%) |
0.350∗∗∗ |
−0.850∗∗ |
(0.115) |
(0.340) |
|
統制変数 |
||
人口密度 (対数) |
0.105∗∗ |
−1.451∗∗∗ |
(0.042) |
(0.124) |
|
年齢中央値 |
−0.138∗∗∗ |
0.310∗∗∗ |
(0.014) |
(0.041) |
|
男性人口比率 |
0.051 |
0.095 |
(0.033) |
(0.097) |
|
所得中央値 (対数) |
0.512∗∗∗ |
2.114∗∗∗ |
(0.110) |
(0.325) |
|
第一次産業従事者比率 |
−0.025∗∗ |
0.068∗∗∗ |
(0.010) |
(0.029) |
|
東京からの距離 (対数) |
−0.091∗ |
−0.955∗∗∗ |
(0.048) |
(0.141) |
|
定数項 |
3.890∗∗∗ |
20.132∗∗∗ |
(0.610) |
(1.799) |
|
モデル統計量 |
||
観測数 (N) |
1,741 |
1,741 |
R2 |
0.412 |
0.478 |
注:括弧内は標準誤差。∗∗∗p<0.01,∗∗p<0.05,∗p<0.1 |