自衛隊に参政党の影? 圧倒的組織票を抱えていた「ヒゲの隊長」が2025年参議院選挙で落選した理由(2)【林直人】
◆イデオロギーの戦場に火をつけた参政党 ーー 自民党を追い詰める“愛国的反体制派”の逆襲
2.1 参政党の変貌――ニッチ政党から“国家再生運動”へ
2022年、参政党は「先制的防衛」などの硬派な軍事論で一部マニア的な支持を集めただけの存在にすぎなかった。だが2025年、彼らは牙を研ぎ直し、全方位的なナショナリズムの旗を掲げて舞い戻ったのである。
そのビジョンは大胆かつ扇動的だ。
・食料自給率倍増計画――10兆円を投じ、農業を“国防の最前線”へと格上げ。
・医療・健康主権――WHOなど国際機関の権威を一蹴し、日本独自の判断体制を構築。
・文化的アイデンティティ防衛――夫婦別姓反対、外国人管理庁の新設といった政策で「伝統の砦」を死守。
参政党はこうして、食と健康、家族と国防を一体化させた「生存国家イデオロギー」を打ち立てた。もはや彼らは泡沫政党ではない。日本政治の主役を狙う“時代の寵児”として舞台の中央に躍り出たのである。
2.2 自民党の“パクリ戦略”――「総合安全保障」の苦しい追従
追い詰められた自民党は、参政党の挑発に応じざるを得なかった。掲げたスローガンは「総合安全保障」。外交・防衛・エネルギー・食料をまとめて管理するという、耳触りの良い看板を掲げた。
だがその実態は――参政党の提案をほぼ“丸呑み”したにすぎない。
治安強化、違法外国人ゼロ――参政党の右派的主張を“借用”。
・憲法改正――自衛隊明記という古典的議題で支持を繋ぎ止めようとするが、新鮮味はゼロ。
ここに見えるのは、かつて「国家安全保障」を独占していた自民党の“焦り”だ。しかも、似た言語を使った時点で、参政党が設定した土俵に乗せられてしまった。結果、自民党は「現実的な担い手」を装うつもりが、むしろ参政党の問題提起を正当化してしまうという自己矛盾に陥った。
2.3 愛国的反体制派――国家を揺さぶる“新・中核有権者”
2022年に登場した「愛国的反体制派」は、当初は単なる“怒れる少数派”だった。だが2025年、与党が過半数を失った瞬間、この集団は政局を左右する決定打に変貌した。
特に注目すべきは、この層に自衛官が含まれている可能性である。国家を命がけで守る任務を持つ彼らにとって、「食も健康も文化も国防だ」という参政党の世界観は、職務意識と驚くほど自然に重なり合う。
一方、自民党の「総合安全保障」は、縦割りで寄せ集めただけの官僚的プランに見える。現場の自衛官からすれば、“机上の空論”に過ぎないのだ。
つまり――参政党が提示するイデオロギーは、自民党が失った“真正性”を奪い取り、若年層や自衛官を巻き込みながら、新たな保守の中心地へと成長しつつあるのである。