陸海空自衛隊に温度差? 圧倒的組織票を抱えていた「ヒゲの隊長」が2025年参議院選挙で落選した理由(1)【林直人】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

BEST TiMES(ベストタイムズ) | KKベストセラーズ

陸海空自衛隊に温度差? 圧倒的組織票を抱えていた「ヒゲの隊長」が2025年参議院選挙で落選した理由(1)【林直人】

 

3暴かれた岩盤票の正体

 ―― 自衛隊票は都市伝説ではなく現実だった!

■ 3.1. 中核的相関:「自衛隊票」は存在するのか?

 ついに数値が白日の下にさらされた。

 これまで政治関係者やメディアで囁かれてきた「自衛隊票」なるもの――。
 それは単なる憶測にすぎないと切り捨てられることも多かったが、本研究が用いた固定効果モデルは、その存在を統計的に実証してしまった。

 

固定効果モデルの冷徹な数式

 ここで、

・Sato_Vote_Share:佐藤正久氏の得票率

・SDF_Density:有権者に占める自衛隊員比率

を示す。

 つまり、このモデルは「自衛隊員の存在感がどれだけ佐藤票に直結するか」を炙り出す仕掛けである。

 

衝撃の結果

 分析の結果(表2参照)、SDF_Density の係数 β1 は常に正で、しかも1%水準で有意

 これはすなわち――

・自衛隊員が多い自治体ほど、佐藤氏は確実に得票を伸ばしている

・「ヒゲの隊長」は単なる人気者ではなく、自衛隊票を盤石に固める“制度的受益者”である

・自衛隊票は噂ではなく、統計が裏付けた「岩盤票」そのもの

を意味する。

 

2: 佐藤正久候補の市区町村別得票率に対するパネル回帰分析の結果

モデル1 (Pooled OLS)

モデル2 (年固定効果)

モデル3 (市区町村・年固定効果)

独立変数

SDF_Density (%)

0.582***

0.579***

0.415***

(0.021)

(0.021)

(0.035)

Sato_Former_Post_Dummy

2.150***

2.148***

0.987**

(0.312)

(0.312)

(0.401)

JGSDF_Dummy

0.891***

0.885***

(統制済み)

(0.075)

(0.075)

JMSDF_Dummy

0.754***

0.749***

(統制済み)

(0.113)

(0.113)

JASDF_Dummy

0.699***

0.692***

(統制済み)

(0.098)

(0.098)

固定効果

選挙年固定効果

No

Yes

Yes

市区町村固定効果

No

No

Yes

統計量

観測数

7,168

7,168

7,168

R-squared

0.298

0.301

0.854

: 従属変数は Sato_Vote_Share (%)。括弧内は標準誤差。** p<0.01, ** p<0.05, * p<0.1。社会経済的制御変数はすべてのモデルに含まれるが、紙幅の都合上省略。*

△ 自衛隊員が多いと佐藤まさひさ候補の得票率が高くなるかを分析した統計分析、陸上自衛隊の場合得票率が高くなるが、海上自衛隊・航空自衛隊についてはやや得票率が下がることがわかる。

 

■ 3.2. 地理的・組織的差異――「個人的忠誠」と「軍種の結束」

 衝撃的な事実がまた明らかになった。

 まず検証されたのは「個人的繋がり仮説」だ。佐藤正久氏がかつて指揮官を務めた 福知山、帯広、青森――この地で彼の得票率は他地域に比べて 0.99ポイント高い

 数字は冷酷に語る。これは単なる人気の問題ではなく、「かつての上官への忠誠」が票に転化していることを意味する。部下として彼のリーダーシップを肌で知った人々が、投票所で“ヒゲの隊長”に絶対的な信任を示しているのだ。

 さらに「軍種間差異仮説」も見逃せない。陸海空いずれの自衛隊コミュニティでも支持は有意に高いが、特に 陸上自衛隊の係数が突出

 そう、陸自出身の佐藤氏は、まさに「同胞の英雄」として支持を一身に集めているのである。

 ここに浮かび上がるのは、組織を超えた個人への尊敬と、軍種固有の仲間意識。佐藤票は「偶然」ではない――制度的忠誠票だ。

 

■ 3.3. 長期的傾向――“岩盤は揺らいでいない

 では、この盤石な支持は時間とともに風化しているのか?

  答えは――ノー

 2007年から2019年までのデータをクロスしても、有意な負のトレンドは一切検出されなかった

 つまり12年間、自衛隊員密度が佐藤氏の得票率に与えるプラス効果は微動だにせず安定していたのだ。

 民主主義のダイナミズムとは対照的に、ここには**「不動票」どころか「鉄壁の岩盤」**が存在する。

 

■ 3.4. 「全員投票」仮説――恐るべきコミュニティ票の実態

 最後に突きつけられたのは、背筋の凍る事実だ。

 千歳、恵庭、むつ、横須賀、呉、佐世保――自衛隊タウンと呼ばれる地域では、佐藤氏の得票数が隊員本人の数を上回るケースが確認されたのである。

 これは何を意味するのか?

 もし投票が隊員本人だけならば、100%の投票率と100%の支持がなければ成立しない。だが、現実はそれを超えている。

 すなわち――

 票は隊員本人にとどまらず、配偶者・子ども・文官・OBへと広がり、**「自衛隊コミュニティ全体の集団投票」**として組織されているのだ。

 結論は一つ。

 自衛隊票とは単なる「職業票」ではない。
 それは 制度・文化・アイデンティティに基づいた共同体票 であり、民主主義の中に組み込まれた影の組織票マシーンそのものである。

次のページ2025年の衝撃――参政党の挑戦と“岩盤”に走った断層

KEYWORDS:

オススメ記事

林直人

はやし なおと

起業家・作家

1991 年宮城県生まれ。仙台第二高等学校出身。独学で慶應義塾大学環境情報学部に入学(一般入試・英語受験)。在学中に勉強アプリをつくり起業するも大失敗する。その後、毎日10 分指導するネット家庭教師「毎日学習会」を設立し、現在に至る。毎年100 人以上の生徒を指導し、早稲田・慶應・上智を中心に合格者を多数輩出している(2021 年早慶上智進学者38 名・7/20 時点)。著書に『うつでも起業で生きていく』(河出書房新社)、『人間ぎらいのマーケティング人と会わずに稼ぐ方法』(実業之日本社)などがある。連絡先:https://x.com/everydayjukucho

この著者の記事一覧