自国を守るためにできることとは? 清水幾太郎著『日本よ 国家たれ 核の選択』を読む【緒形圭子】
緒形圭子「視点が変わる読書」第21回 『日本よ国家たれ 核の選択』清水幾太郎 著

◾️戦後最大のタブー「日本の核武装」
この本が45年前に書かれたことに驚愕する。今の世界情勢における日本の危機を語っているようではないか。今、こうした内容の本が刊行されたら、共感する人は多いのではないか。自分の国は自分で守りたい。祈っているだけでは平和は保てない。私もそう考える一人である。
ところが、この本が出た直後に清水幾太郎を徹底的に批判した人がいた。保守派の論客、福田恆存だ。
『中央公論』(1980年10月号)には福田による「近代日本知識人の典型 清水幾太郎を論ず」が掲載された。
これは読まねばと、国会図書館まで行って、コピーしてきた。
『日本よ 国家たれ 核の選択』について福田はまず、「私の読後感は不快感の一語に尽きる、怒りではない、寧ろ嘗ての友人、先輩に対する同情を混へた嫌悪感である」と、自身の不快感を露わにしている。さらに、「戦後最大のタブーに挑んで話題騒然」は羊頭狗肉もはなはだしく、この本に書かれていることは全て過去二十年間に多くの人によって言い尽くされたことであり、「清水氏の試みた事は、それらの部分ゝゝを寄せ蒐め、糊と鋏で要領よく整理し、創意は無いが、気楽で斜め読みの出来る優等生並みのダイジェスト版作成に過ぎない」と、容赦ない。
それに止まらず、こうも言う。
「『核の選択』における防衛の対象は日本なのではなく清水氏自身なのであり、その全文は手の籠んだ自己防衛の仕組みに他ならない。随つて、それは、余人ならぬ清水幾太郎が国防強化を言ひ出す経緯説明以外の何ものでもなく、非難は覚悟の上とは言つても、同時に、『あの清水幾太郎が』といふ効果の方がその種の非難を遙かに上廻るほど大きい、苦労人の氏の事だ、その程度の計算は殆ど本能的に働く筈である。さう考へるのは氏に対する私の買被りであろうか」
要するに、今こそ自分が国防について唱える時が訪れたとみた清水幾太郎が、これまで多くの人が言ってきた国防論をあたかも自分一人が考えたことのように本にまとめ、脚光を浴びようとしたと言っているのだ。
それも概評に始まり、細部を一つ一つ論駁していくという手の込みようで、頁にして34ページ、400字詰め原稿用紙100枚、40,000字の大論文である。
私怨でもあるのかと思われるほど福田が激しているのは、福田に国防に対する確固とした姿勢があるからだろう。それについては論文の冒頭に書かれている。
「~素人の私が今日まで一個人、一国民として国防に関心を示して来たのは、戦略、装備、軍費の具体案ではなく、さういつた具体的な問題を論議する前に、それを研究し、その結果を検討し得る体制を造る事、即ち国家、社会における軍の在り方を正常なものにし、文民統制といふ問題を含めて、軍が軍で在り得る為の機構、機能を整備する事、その方が大事だと考へてゐたからであり、防衛問題ばかりでなく、何事につけ、さういふ常識が通用しなくなつた『戦後の風潮』を私は私の『敵』と見てゐたからである」
福田にとって清水幾太郎こそ、「戦後の風潮」の代表なのだと理解した。
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『福田和也コレクション2:なぜ日本人はかくも幼稚になったのか』
福田和也 著
全国民必読!
保守派の論客・福田和也が
遺したものとは何だったのか・・・
佐藤優氏(作家・元外務省主任分析官)推薦!!
✴︎「思想は実践に影響しなければ意味がないと考えた、
同世代で私が最も尊敬する知識人の一人である。」
✴︎「私は「保守派の論客」という規定では、
福田氏のスケールをとらえ損ねると考えている。」
✴︎「福田氏は、保守派の論客であるが
日本国家が自明であるとは考えていなかった。」
✴︎「福田氏が考えていたのは、全ての人間に備わった
責任感ということだったように私には思えてならない。」
✴︎「『真剣な問に対して、責任を持って答えるとはどういうことか』について、
私は福田氏から多くを学んでいる。
第一部 日本とは何か
日本の家郷
「内なる近代」の超克
日本人であるということ
乃木希典
保田與重郎と昭和の御代
第二部 ナショナリズムとは何か
なぜ日本人はかくも幼稚になったのか
この国の仇
余は如何にしてナショナリストとなりし乎
大丈夫な日本
【解説一】西部邁 【解説二】久世光彦 【解説三】角川春樹
本書解説 佐藤優
「福田和也氏の普遍主義とアナーキズム」
総頁676頁の【完全保存版】
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『福田和也コレクション1:本を読む、乱世を生きる』
国家、社会、組織、自分の将来に不安を感じているあなたへーーー
学び闘い抜く人間の「叡智」がここにある。
文藝評論家・福田和也の名エッセイ・批評を初選集
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◆第二部「批評とは何か」
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◎中瀬ゆかり氏 (新潮社出版部部長)
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彼の登場は文壇的“事件"であり、圧倒的“天才"かつ“天災"であった。
これほどの『知の怪物』に伴走できたことは編集者人生の誉れである。」