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自国を守るためにできることとは? 清水幾太郎著『日本よ 国家たれ 核の選択』を読む【緒形圭子】

緒形圭子「視点が変わる読書」第21回 『日本よ国家たれ 核の選択』清水幾太郎 著

 

◾️米ソ時代と米ロ時代の共通点

 

 では何故、1980年という時期だったのか。

 それについて清水は、米ソの軍事バランスが崩壊し、ソ連優位が見え始めたからだと説明している。1962年のキューバ危機でアメリカの軍事的優位が示されてから、ソ連は軍事力の強化に邁進した。核ミサイルの開発を行い通常兵器の強化にも力を入れ、1970年代に入るとその力はアメリカを凌ぐのではないか、というところまで来てしまった。その証拠に197991日、アメリカの元国務長官キッシンジャーはベルギーのブリュッセルで西ヨーロッパ諸国の指導者に向かい、ヨーロッパで有事が起きてもアメリカの力を期待しないでほしいと公言した。

 同朋のヨーロッパさえ守らぬアメリカが、たとえ日本がソ連から攻撃を受けたとしても守ってくれるはずがない。日本は自国の国土を守る「針ネズミ」のような防衛力と、ソ連軍の発進基地と海上の兵力をたたけるだけの攻撃力が必要だと清水は考えた。

 さらにそこから、日本の核問題に踏み込んでいく。

 

 「日本の敗戦と同時に、『平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会』なるものは、泣いても笑っても、核兵器時代という新しい平面に上ったのである。絶対兵器の出現に世界の戦国時代が終わったのではなく、依然として続く戦国時代に絶対兵器が導入されたのである。しかし、私たちは、最初の被爆国という感傷に溺れているのか、嘆くばかり、祈るばかりで、この単純な事実を正面から見ようとしない」

 「私たちが広島や長崎の悲惨を訴えても、或いは、私たちが訴えれば訴えるほど、各国の指導者は、益々核兵器の威力を確信して、その製造に努力するであろう」

 「核兵器が重要であり、また、私たちが最初の被爆国としての特権を有するのであれば、日本こそ真っ先に核兵器を製造し所有する特権を有しているのではないか。むしろそれが常識というものではないか。『非核三原則』を唱えてみても、世界中の誰が知っているであろう。もし知っているものがあれば、それをただ日本の弱さの告白として理解するであろう」

 

 いずれももっともだと思った。

 自国を守る軍事力を持つという、国家の重要な要件を日本はアメリカにおしつけられた憲法九条によって奪われてしまった。このままアメリカの言う通りにしていていいのか。日本は国家たる軍事力を持たなければならないというのが清水の主張だ。しかも観念論だけでなく、軍事専門家たちと研究した「日本が持つべき防衛力」というレポートまでまとめ上げ、本に載せている。

次のページ戦後最大のタブー「日本の核武装」

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第一部 日本とは何か

日本の家郷

「内なる近代」の超克

日本人であるということ

乃木希典

保田與重郎と昭和の御代

 

第二部 ナショナリズムとは何か

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この国の仇

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大丈夫な日本

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本書解説 佐藤優

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緒形圭子

おがた けいこ

文筆家

1964年千葉県生まれ。慶應大学卒。出版社勤務を経て、文筆業に。

『新潮』に小説「家の誇り」、「銀葉カエデの丘」を発表。

紺野美沙子の朗読座で「さがりばな」、「鶴の恩返し」の脚本を手掛ける。

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