デザイナーとして大事なことは全て「東電広告」で教わった【斉藤啓】
どーしたって装丁GUY 第3回
■シャカイは意外にもステキだ
前回コラムを読んでくださった方々には「こいつカネに目が眩んで芸術を捨てやがった」とおっしゃる方もいるかも。それはおっしゃる通りwなのですが、ヒトは決してカネだけで動くにあらず。
ここのスーツオジサンたちのラフ&タフで百戦錬磨なオトナ感がなんだかカッコよくって。ハードな仕事量とタイトなスケジュールに文句も垂れるし怠けるし悪態もつくけど、にもかかわらずみんなそれを楽しむようにバリバリと各人のスタイルで仕事をこなしている。
なによりここではどうやらぼくは歓迎されているようで、ぼくの得意なことでプロジェクトに貢献できてるっぽい。ムサビではまったく味わえなかったそれを初めて実感できて、なーんだ仕事ってシャカイってこんなに自由にのびのび好きなことをやれる場所だったんじゃん、って自分のまぶたを矯正医療器具か何かでいきなりビロッっと広げさせられた感じ。
「斉藤、これいいじゃん!」とか、「斉藤くん、このバリエーションをもう一枚欲しいんだけど、あの企画意図ならどう変える?」とか、オトナたちが投げかけてくる言葉がとにかく楽しくてうれしくておもしろくてFINE POINT(プロ仕様の製図・スケッチペン)を動かす右手がどーにも止まらない。
“オトナは全員クソ”とか“資本主義の搾取構造から脱せよ”とかワケもわからず社会をクサしては自分を正当化してたダサい自分が細胞から溶け変わり、強気でイケイケな本来の自分をこの右手で奪い返したような確かな感覚。ただし本来の自分とは天才芸術家の方ではなく資本主義のイヌの方だったようだワン。