デザイナーとして大事なことは全て「東電広告」で教わった【斉藤啓】
どーしたって装丁GUY 第3回
■100%ムリゲー。思いがけない挑戦へ
なんてその日もしっぽをふりふりスケッチ仕事してたら背後から、「斉藤ってスケッチだけじゃなくちゃんとしたデザインもできるの?」と部長。「ハイ!(やったことないけどたぶん)」とぼく。「まあそりゃ中退とはいえムサビの視デだもんな」と、近くのチェアをにじり寄せぼくの隣に腰を下ろす部長。なんでも東京電力がここんとこ企業メセナの一環として尾瀬の環境保護活動に力を入れてるそうで、その広報のため秋に日比谷公園で大きなイベントを打つらしい。
ここで部長はちょっと考えてからぼくに向き直り、「お前そのイベントのデザイン一式丸々やれるか?」
「ハイ!やれます。」え、ちょ、ちょ、待っ、と思いつつも快活に即答してしまうぼく。「オッケーありがとう、じゃあ内容の詳細決まり次第まず会議するべ!また声かけるわ」、ぼくの肩をポンポンと叩いて部長は立ち去っていきます。
さあ、これはまさに想定外、おおごとになりました。
今までのように気軽にサラサラっとスケッチ描いていっちょあがり、では済まされません。企画のプランニングから精緻なディレクションそしてデザインの実作業すべてを“プロのレベル”で完遂しなきゃならない。東京電力肝入りの企画だけに大きな責任が伴い、失敗はおそらく許されない。
てかたしかにムサビの視デだけど、授業はほぼ出ずにバイトして部屋で絵描いて日がなゴロゴロしてただけなので本格的なデザインなんて「いっっっさいやったことありませんっ!」、とはこの期に及んで言えるはずもなく、あーあこれどーすんの。
ふりむきざま部長が「あそうだ、斉藤〜、ギャラは150万で頼むな〜」。
「ハイ!それでオッケーです!」とぼくは爽やかにサムズアップ。…ひゃひゃひゃひゃくごじゅうまん!?
こうしてぼくの地獄の広告デビュー戦が始まったのです。
絵と文:斉藤啓