デザイナーとして大事なことは全て「東電広告」で教わった【斉藤啓】
どーしたって装丁GUY 第3回
■はじまりは東電広告営業部付けスケッチ係
社内に通されたぼくは、すっかり営業らしい出で立ちでオトナびたみっちゃんはじめ、ずらりと揃ったスーツのオジサンたちに出迎えられました。その中のやたら日焼けしたダブルのスーツのオジサン(部長さんでした)に「お前が斉藤か、みっちゃんから噂は聞いてるよ!」と名刺を渡され、さぁ仕事だ、仕事だ、とそのまま会議室へ連行。
彼ら営業部は“制作営業”という広告やイベントのプロデューサー的役割を担う部署。親会社である東京電力の広告制作全般、ポスター新聞広告やテレビ・ラジオCMの媒体買い付け、自社媒体の販売など、通常の広告代理店としての機能のほか、東京電力が運営する銀座のアート・ギャラリー「プラスマイナスギャラリー」のキュレーション(美術展示の企画立案、作家のセレクトなど)や、渋谷の「電力館」ほか各地で開催される東京電力主催イベントのプロデュース(企画から会場のインテリア・設営・集客に至るまで)まで手広くやっていました。大規模キャンペーンになると外様の大手代理店も関わってきますが、東京電力の仕事を大小問わずよろず承る、いわば「実戦部隊」がこの東電広告。
まーそんな内情もよくわからないまま「いったいおれは何をやらされるんだ?」とキョドってるぼくに言い渡された初仕事。それは企画会議の中で飛び交う営業さんたちの言葉を「絵にしてくれ」とのことでした。
たとえば、「次のイベントのブースはこんな感じにしたい」とか、「今回の広告のテーマはあれなのでこんなビジュアルはどうか」「次の美術展では作家の作風的にこんな展示インテリアがいいのでは」などなど、営業部のみんなのフワッとしたナマのアイデアや思いつきを、ぼくが即興でラフスケッチにおこして具現化・可視化するとゆう仕事。
さらに何度も会議を重ね、部内全体および東京電力本体のコンセンサスも取りながらスケッチをブラッシュアップ。こうして完成したスケッチ画がプロジェクトの完成イメージ図となります。これを基に外部のグラフィックデザイナーやインテリアデザイナーなどに実作業を発注、彼らプロの技術と感覚でもってポスターなりインテリアなりが実体化される、とゆう流れ。
これって正確な職業名はないんですが「議事スケッチ録係」とでも言おうか。
会議中に飛び交いまくる言葉を逃さぬため、まず画力よりもスピード重視。そしてポスターなりイベントなりを今っぽいルックにアレンジできる程度の知識の引き出しが必要。ここで図らずもムサビ時代に「アレもコレも!」と精神汚染ギリギリまで貪り読んだ最新アートムーブメント情報やきわどいサブカル知識が大いに役立つことになります。あくまで現代的なエッセンスの薬味としてちょい足しする、という用法用量で。
また、言われた言葉を言われた通りに描くのではなく、ぼくの “意見”もスケッチに埋め込めばそれに方向性が生まれ、方向性はパワーに変わり、パワーが説得力を連れてきてくれる。その説得力が皆を納得へ向かわせる。これは小学生のとき同級生に囲まれあれこれ描いてはチヤホヤされてたあの感覚だ。ムサビ時代から「芸術=仕事」って図式に拒否反応があったはずなのに、いざやってみたら…、
「おれ意外に得意だぞ?この仕事。」
最終的にスケッチにマーカーや色鉛筆で彩色・清書して提出すればハイお仕事終了。すると、なんとスケッチ1枚×4,000円で買い取りなり!一度の会議でだいたい5〜10枚、多い時はそれ以上描くことになるので数時間で数万円とゆう想定外な高額バイト(不定期ですけど)。得意な絵を描くだけでラクに稼げる仕事があるなんて♪