オトナは全員クソだ!ぼくはいかに“ムサビ”で絶望し挫折したか【斉藤啓】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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オトナは全員クソだ!ぼくはいかに“ムサビ”で絶望し挫折したか【斉藤啓】

どーしたって装丁GUY 第2回

■オトナはわかってくれない!

 

 

 その後も商業デザインの座学、鉛筆デッサンなどの実技が続き、時には〜創造力を高めよう〜的な意識高い系幼稚園児の情操教育もどきまでやらされて超ウンザリ。

 こんな茶番でぼくの「固有魔法」は磨かれない。天才芸術家に近づくどころか逆にどんどん凡人に矯正されてそうな恐怖。このぬるったい授業をインテリ気取りで指導する教授陣はもはや全員敵認定済み。

 そもそもプロとしてカッコイイデザインを作れないから教員とかやってんだろマジでダッせえ。そして与えられたカリキュラムに迷いも衒いも持たず打ち込んでいるクラスメイトたちにも無性に腹が立つ。チャラチャラ楽しそうにやりやがってザコどもが、ぼくはお前らとは違う、決して飼い慣らされないのだぞ!

 とにかくなにがなんでも「自分だけが特別」でなければいかんため、西武線でうちから一本の池袋リブロポートという書店をぼくの頭脳にすることにしました。

 画集や美術書で最新アートムーブメントをベンキョーし、サブカル思想誌を読み漁り最新の概念を脳に植え付け理論武装。流行りのニューアカデミズム本はチンプンカンプンだったので大学構内で小脇に抱えるだけの小物として活用するとして、はては革◯ルやオ◯ム本にまで手を広げ…。反体制・反権力・社会革命を謳うたいそうご立派な思想と、ごく個人的なぼくの疎外感が、ものすごいスピードでガワ変形合体を果たしていきました(この両者、実にマッチングがいい)。

 頭がパンパン、目がドンギマり、ありえない角度で斜に構えるようになったぼくは、負のオーラをそこら中に撒き散らす存在に。もう周囲の誰からも相手にされず、教授たちの目もどんどん冷淡になってゆく。それをさらに先回りして嘲笑する悪循環。授業もだんだん休みがちに。

 カーテンを閉め切った暗い四畳半の部屋、敷きっぱなしのジメジメ布団の上に体育座りでじっと膝を抱える。天才芸術家になるはずだったのに。アートの動向も最新思想もブチこめるだけブチこんだのに。カッコイイデザインを作ってみんなにチヤホヤされたかっただけなのに、いったいなぜこんなことに…。

 いやちがう! そう、これは商業主義に魂を売った教授陣と受験地獄かつ学歴至上主義で従順な指示待ち人間と堕した生徒等の歪んだ相互依存、いやむしろ悪しき因習と既得権益が蔓延する美術アカデミズムの構造的問題、そもそもの諸悪の根源は日本国とゆう腐り切った社会システムそのものであり、いや戦後米国に支配され隷属した結果拝金主義がスキゾの構造と力がサイバーでパンクしてチベットがモーツァルトだから、ええと、一言でまとめると…、

「おれ以外全員バカで、オトナは全員クソ!」、

 こう思わなきゃもうこれ以上自分のメンタルが守れなかった。ぜんぶ周りのせいにして、自分こそが無価値なザコである現実から全力で目を逸らしてたんです。

次のページさらば愛しきムサビ

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斉藤 啓

さいとう けい

装丁家 グラフィックデザイナー アートディレクター

武蔵野美術大学視覚伝達デザイン科中退。有限会社ブッダプロダクションズ代表。メインのお仕事は書籍の装丁ですが、ファッションなどの広告や、企業団体のディレクションなどもやってます。たまにBDAP名義でアーティストも。ヒマな時は山登りかチャリ乗ってます。HIPHOPと麻婆豆腐が好き。ニューヨークADC Distinctive Merit。ニューヨークTDC、ニューヨーク・フェスティバル、ショーモン国際ポスターフェスティバル(仏)ほか国内外のデザインコンペティションで受賞多数。

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