オトナは全員クソだ!ぼくはいかに“ムサビ”で絶望し挫折したか【斉藤啓】
どーしたって装丁GUY 第2回
■さらば愛しきムサビ
ずっと授業も出ぬまま東京の街を彷徨うぼく。街角の若い画家のエキシビジョンに吸い込まれる。画家本人が気さくに図録にサインしてくれたことをいいことに、何度も何度も通っては作品について質問をぶつけ、それにひとつひとつ誠実に答えてくれることが嬉しくて、ついついぼくのニッチもサッチもいかない状況を吐露してしまった時、
「周りなんてどうでもいい。キミはキミの場所でキミの絵を描けばいいんだ」
この言葉がハラにスッと落ちたぼくの心は決まりました。そのエキシビジョンのすぐのちフレッシュな旋風とヘビー級の衝撃で日本の美術界をポップかつラディカルに刷新してしまう若き大竹伸朗さんの言葉です。
中退届けを提出に行った先は、あれは教授だったか助教授だったか学生相談だったか…もう忘れてしまいましたが、当然とはいえそれは冷たく事務的に処理され、通学総日数2ヶ月に満たないぼくの大学生活は終わりを告げたのでした。
「キミの場所、か…」。アルバイトをしながら部屋で絵を描く日々がはじまりました。スマホもガラケーも無い時代、アパートの共同電話が鳴る。大家さんが取り次いだ受話器のむこうは同い年の女友達みっちゃん。この春に女子美術短大を卒業のち広告代理店に入社し順風満帆な社会人生活を送ってると聞いてましたが開口一番、「斉藤!毎日仕事忙しくてやっばいの!ヒマなら手伝いに来てくれないかな?」。
この一本の電話でぼくの運命は想定外に変わることになる。
絵と文:斉藤啓