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その雑誌のタイトルは『Title』【新保信長】 連載「体験的雑誌クロニクル」18冊目

新保信長「体験的雑誌クロニクル」18冊目


子供の頃から雑誌が好きで、編集者・ライターとして数々の雑誌の現場を見てきた新保信長さんが、昭和~平成のさまざまな雑誌について、個人的体験と時代の変遷を絡めて綴る連載エッセイ。一世を風靡した名雑誌から、「こんな雑誌があったのか!?」というユニーク雑誌まで、雑誌というメディアの面白さをたっぷりお届け!「体験的雑誌クロニクル」【18冊目】「その雑誌のタイトルは『Title』」をどうぞ。


写真:著者撮影

 

【18冊目】その雑誌のタイトルは『Title』

 

 前回書いたとおり、『マルコポーロ』の仕事をするようになったのは、中学高校の先輩でもある勝谷誠彦氏に誘われたのがきっかけだ。それほど大所帯の編集部ではなく、斎藤禎編集長の人柄(というより文春の社風?)もあってか、アットホームな雰囲気だった。編集部のメンバーとは、仕事の話だけでなく雑談もする。そのなかにあって、同い年でなんとなく馬が合ったのが新谷学氏だった。

 のちに『週刊文春』編集長となり「文春砲」で名を馳せるとは当時は思いもしなかったが、バンカラで型破りな切れ者という印象はあったので不思議はない。1995年に『マルコポーロ』が廃刊になってからも、なんだかんだと付き合いはあった。

 その新谷氏から「今度新しい雑誌を立ち上げるから手伝って」と連絡があったのは確か1998年の秋頃だった。その時点ではまだ誌名は決まっておらず、何度かの打ち合わせと取材を経てテスト版用の原稿を送った際に「そういえば、タイトルどうなったんスか?」と聞いたら、「タイトルってことになったんだけどさあ」と言う。なんのこっちゃと思ったら、その新雑誌のタイトルがTitleだった。 

 1999年にテスト版0号が関係者に配られ、創刊は2000年3月26日発売の5月号。編集長は西川真彦氏で、新谷氏は「Editorial Staff」の2番目に名を連ねている。表紙は「オリジナル・バーチャキャンギャル」の「ユカワミヨコ」。当時最新のCG画像も今の目で見るといささか古臭い感じがするけれど、AIキャラ全盛の時代を先取りしていたと言えるかもしれない。

 

『Title』(文藝春秋)2000年5月創刊号。記事画像はp46-47より

 

 創刊の辞のようなものは見当たらず、特集「未来日本」の扉に次のような文言がある。

〈新雑誌『Title』のキーワードは“Read at your own risk.”。権威やスタンダードの押し売りはしない。あなたの責任で読んでほしい。情報やメッセージの発信源は、自由な発想と確固たる価値観を持った個人。それをどう解釈し、どうアレンジして応用するかは、読者一人一人にゆだねたい〉 

 これだけではどういう雑誌かよくわからないが、分類するなら「ビジュアル総合カルチャー誌」ということになろうか。創刊号の特集記事は、押井守×ウォシャウスキー兄弟(現・姉妹)対談、不肖・宮嶋こと宮嶋茂樹のイージス艦同乗記、「匠の新機軸」と題した日本発の靴、眼鏡、鞄の逸品紹介、山田なおこによる「日本スナックめぐり」、在日歴10年のアメリカ人による「最新性風俗でディスカバー・ジャパン!!」など。「未来日本」のタイトルどおり、伝統的な日本文化ではなくキッチュでカオスなカルチャーを幕の内弁当のように詰め込んだ。

 都築響一の「ROADSIDE USA」、永江朗、吉田豪、嶽本野ばら、夏原武らが連載するコラムページもある。個人的イチオシは、団鬼六がホストを務める対談連載「外道談義 地獄で鬼六」だ。何しろ初回のゲストが金嬉老というところからしてすごい(誰だかわからない人はググってほしい)。以降、福永法源、岸部四郎、松野行秀(沢田亜矢子の元夫・ゴージャス松野)&愛田武(歌舞伎町「クラブ愛」社長)、村西とおる、山城新伍、黒川博行、飯島愛、赤塚不二夫……と、濃すぎるメンツ。それこそ地獄の鬼も裸足で逃げ出すような強烈発言の連打にKOされる。

次のページ私が一躍メインを張った特集号「雑誌チュー毒」が売れ行き最高に!

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新保信長

しんぼ のぶなが

流しの編集者&ライター

1964年大阪生まれ。東京大学文学部心理学科卒。流しの編集者&ライター。単行本やムックの編集・執筆を手がける。「南信長」名義でマンガ解説も。著書に『国歌斉唱♪――「君が代」と世界の国歌はどう違う?』『虎バカ本の世界』『字が汚い!』『声が通らない!』ほか。南信長名義では『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『1979年の奇跡』など。新刊『漫画家の自画像』(左右社)が絶賛発売中です!

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