日本でネオナチ政党が拡大。人類はどこに向かうのか?【適菜収】
【新連載】厭世的生き方のすすめ! 第7回
時代を鋭く抉ってきた作家・適菜収氏。当サイト「BEST T!MES」の長期連載「だから何度も言ったのに」が大幅加筆修正され、単行本『日本崩壊 百の兆候』として書籍化された。新連載「厭世的生き方のすすめ」では、狂気にまみれたこのご時世、ハッピーにネガティブな生活を送るためのヒントを紹介する。人類は「宇宙」を目指すべきだと語る大富豪がいる一方、人類が帰るべき場所はなんと「海」だと説く適菜氏の連載第7回。

■新しいフロンティア
先日、「日本はこの先どうなっていくのか」と聞かれた。こういう質問は過去に何回もされた。数百年程度の短いスパンで見れば、近代大衆社会の病が行き着くところまで行ったという感じで、明るい未来を見出すことはできない。現在、社会の脆弱な部分がテクノロジーにより狙い撃ちにされ、そこに資金が流れている。これはアメリカでもそうだ。2025年の参院選の結果は、それを如実に示した。
もう少し長いスパンで見ると、環境の変化により暮らしにくい世界が待っていると思う。宇宙物理学者のスティーヴン・ホーキングは、2017年のインタビューで、「社会が科学とテクノロジーによって支配されつつある」と正確に現状を示したうえで、人類が滅亡する危機に言及している。また、2014年のインタビューでは「完全なAIの開発は、人類の終焉を宣告するものになるでしょう」と述べている。人類消滅は御伽噺ではない。差し迫っている危機である。
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ホーキングは他の惑星への移住を視野に入れるべきだと考えた。イーロン・マスクのようないかがわしい人間も、火星という新しいフロンティアをつくることでビジネスを生み出そうとしている。そのミニチュア版みたいな連中も日本にはいる。
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しかし、私は無理だと思う。地球上の生物は地球の環境に馴染んでおり、地球外では生命を維持できない。火星の平均気温はマイナス63度、大気はほとんどが二酸化炭素で、酸素はわずかしかない。木星はより過酷である。表面温度はマイナス150度だが、雲の下では数千度にも達する。赤道付近では秒速100mの西風が吹く。
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私は陸上の生物は海に戻っていくと思う。そもそも生命は海で誕生し、時間をかけて陸に上がってきた。植物が陸上進出したのは約5億年前。昆虫類は約4億年前。だから時間をかけて海に戻ればいい。少し頑張れば哺乳類でも海で暮らしていくことができる。クジラやイルカも哺乳類である。オットセイもラッコも哺乳類である。海は寒暖差が少ないし、食料問題で困ることもない。真のフロンティアは海にある。
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キリンジの「14時過ぎのカゲロウ」という曲がある。この10年くらい定期的に私の脳内で再生される。「海辺の生き物。だから陸(おか)では生きていけない気がしている」という歌詞で始まるこの曲は、人類の未来を暗示していると思う。私も陸では生きていけない気がしている。陸は嫌だ。いきなり海の中で暮らすのは不可能だが、水辺で暮らしたい。だから、区民プールで泳いだり、ぬるい温泉に長時間つかったりしている。長いときは、11時間連続で温泉に入った。知り合いの編集者に「そんなに長い間、温泉に入っていて飽きないのですか」と聞かれたが、むしろ温泉の外に飽きた。
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60年代の終わりから70年代初頭にかけて、ブラックミュージックの分野で宇宙をテーマにした曲が増えた。アース・ウィンド・アンド・ファイアー風に言えば、宇宙にファンタジーを見出した。ピアニストのサン・ラは自分は火星からやってきたと主張した。そういうキャラクター設定ではなくて、最後まで火星人を演じた。ソウルやジャズ、ファンクでも、宇宙ものが多かった。これは単なる流行とは思えない。皆、地上は住みづらいのだ。
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日本でも小倉優子という人が、宇宙から地球に来たと言っていた。槇原敬之は「EXPLORER」というアルバムのジャケットで宇宙服を着て、笑顔でこちらを眺めている。
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私は大学生の頃、宇宙のことばかり考えていた。講談社のブルーバックスの宇宙の本はたくさん読んだし、量子力学やパラレルワールドの本も読んだ。サン・ラのCDも30枚以上買った。余談だが、サン・ラのCDはESPというレーベルからたくさん出ていた。私はESPという言葉の響きが気になった。高田馬場のさかえ通りを入っていくと、ESP学園がある。当時、さかえ通りの入り口付近に八百屋があって、店内に謎のランキングを張り出していた。そこでいつも上位に食い込むのが「ESP学園の学生」だった。私は当初エスパーの養成所だと思っていたが、エンタテインメントの養成所らしい。
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