「ハラスメント」「キャンセル・カルチャー」「マインド・コントロール」 言葉の定義を知らず、濫用して騒ぐバカなネット民に告ぐ!【仲正昌樹】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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「ハラスメント」「キャンセル・カルチャー」「マインド・コントロール」 言葉の定義を知らず、濫用して騒ぐバカなネット民に告ぐ!【仲正昌樹】

 

◾️「セクハラ」「アカハラ」とされる決定的な要因とは

 

 法的・規範的な意味での「ハラスメント」と単なるトラブルや嫌がらせを区別する決定的な違いがあるとすれば、それは、前者が、実社会での権力関係に基づいているということである。セクシュアル・ハラスメントとアカデミック・ハラスメントが典型だが、職場や大学・学校等、権力の上下関係がはっきりしていて、上の者の言うことを下の者が受け入れざるを得ない、合意したように見えたとしても、実際には強制されていると見られる状況にあった、ということである。「パワハラ(パワー・ハラスメント)」という言葉は、(英単語としての元々の意味でなく、法・規範的な文脈での)「ハラスメント」の本来の意味からすれば、畳語だが、この表現が使われるようになったのは、顧客と店員、サークル内での先輩と後輩のように、明確な組織的な上下関係がなくても、権力関係があると見なすことができるようなパターンと区別するためだろう。

 

キャサリン・マッキノン

 

 「セクシュアル・ハラスメント」を法的概念とし定式化したのは、反ポルノ条例案でも知られる――BEST T!MESに掲載した拙稿『自発的に性産業で働いている人たちのことをフェミニズムは一体どう考えているのか?』を参照――ラディカル・フェミニストのキャサリン・マッキノン(一九四六― )である。マッキノンは、『働く女性のセクシュアル・ハラスメント』(一九七九)で、「最も広く定義したセクシュアル・ハラスメントは、不平等な力関係(unequal power)の文脈における性的要求の望まれない押し付けを指す」と述べている。

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仲正 昌樹

なかまさ まさき

1963年、広島県生まれ。東京大学総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程修了(学術博士)。現在、金沢大学法学類教授。専門は、法哲学、政治思想史、ドイツ文学。古典を最も分かりやすく読み解くことで定評がある。また、近年は『Pure Nation』(あごうさとし構成・演出)でドラマトゥルクを担当し、自ら役者を演じるなど、現代思想の芸術への応用の試みにも関わっている。最近の主な著書に、『現代哲学の最前線』『悪と全体主義——ハンナ・アーレントから考える』(NHK出版新書)、『ヘーゲルを超えるヘーゲル』『ハイデガー哲学入門——『存在と時間』を読む』(講談社現代新書)、『現代思想の名著30』(ちくま新書)、『マルクス入門講義』『ドゥルーズ+ガタリ〈アンチ・オイディプス〉入門講義』『ハンナ・アーレント「人間の条件」入門講義』(作品社)、『思想家ドラッカーを読む——リベラルと保守のあいだで』(NTT出版)ほか多数。

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