デブはなぜやせないのか。現代社会におけるダイエットの考察【適菜収】
【新連載】厭世的生き方のすすめ! 第4回
時代を鋭く抉ってきた作家・適菜収氏。当サイト「BEST T!MES」の長期連載「だから何度も言ったのに」が大幅加筆修正され、書籍化(『日本崩壊 百の兆候』)された。新連載「厭世的生き方のすすめ」では、狂気にまみれたこのご時世、ハッピーにネガティブな生活を送るためのヒントを紹介する。今回のターゲットはデブ。やせたいと思っているのにデブのままでいる人間はバカであると説く適菜氏の連載第4回。

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私は小さな人間になりたい。その話を某所でしたら、「具体的にはどのぐらい小さくなれば満足するのか?」と聞かれた。池乃めだかまで行くのは無理でも、藤井フミヤくらいにはなりたい。もしフミヤの体重が100キロくらいあったら、ああいう声は出ないと思うし、人気も出なかったと思う。
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池乃と言えば、持ちネタのチェッカーズの替え歌「小さな頃から悪ガキで、15で背丈が止まったよ」を思い出す。昔、さらにその替え歌の安倍晋三バージョンを作ったことがある。「小さな頃から悪ガキで、15で知能が止まったよ」。
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私の身長は、去年は176センチだったが、今年は175センチになっていた。来年は174センチを目指したい。
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有島武郎の『小さき者へ』は「前途は遠い。そして暗い。然し恐れてはならぬ。恐れない者の前に道は開ける。行け。勇んで。小さき者よ」と結ばれている。モーパッサンの『脂肪の塊』は読んだことはないが、多分、太りすぎはよくないという話だと思う。
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私が小学生の頃、「林間学校」には2つの意味があった。1つは小学5年生が行く普通の学習旅行である。そして2つ目はデブの矯正施設である。当時は今のような人権感覚がないので、夏休みが近づくと、太った女児(私が見たケースでは女児だけだった)が呼び出される。ホームルームで担任教師が「近藤律子さんと原田美和さんは林間学校の案内があるので、後で職員室まで来て下さい」などと言う。近藤と原田は憔悴し、青ざめた顔で職員室に向かう。周辺の男子は、デリカシーがないから、「ドナドナ」を歌ってはやしたてたりする。そして、きつい食事制限と運動を強制する林間学校の生活が始まる。
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以前のダイエットはひたすらカロリー制限だったが、今は糖質や脂質をとらないと、逆に太ると説明されることが多い。朝ごはんもきちんと食べたほうがいい。私は小さな人間になるために、書籍やネットで情報を集めるようになった。結論としてはPFCバランス(たんぱく質・脂質・炭水化物の摂取比率)を整え、運動をすることにより、少しずつ体重を減らしていくのが一番いいとわかった。極端な糖質制限や脂質制限を行うと、筋肉が落ち、基礎代謝が下がり、やせない体質になっていく。短期的には体重は減っても、リバウンドする。
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デブは基本的にバカである。それだけだと語弊があるので、より正確に言えば、やせたいと思っているのにデブのままでいる人間はバカである。「デブがいい」「デブのままのほうが心地がいい」と思っているなら、バカとはいわない。内臓脂肪を減らしたいと思いながらせっせと内臓脂肪をため込む奴がバカだと言っているのだ。
やせるのは簡単だ。科学的にやせる方法があるのだから、それに従えばいいだけ。にもかかわらず、根拠のない自己流のダイエットを始めたり、ネット上のデマを信じ込んだりする人がいる。ユーチューブのダイエット動画には、「1カ月で14キロ痩せた」といった類の極端なものもある。それにより視聴者を「釣る」わけだ。そういうものに騙されるから、いつまでたってもデブなのである。
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ダイエットは勉強に似ている。たとえば大学受験では闇雲に勉強しても合格しない。大学側が何を求めているのかを過去問題を見て把握し、それに沿って勉強する。大事なことは、現状を把握することだ。当たり前だ。自分の実力を知らなければ、何をどのくらい勉強すればいいかわからない。ダイエットも同じで、絶対にカロリー計算をしなければならない。生存に必要な基礎代謝量に一日の活動カロリーを足した数値(TDEE)より摂取カロリーが低ければ、人間は勝手にやせていく。カロリー計算なしでは、地図を持たずに旅に出るようなものだ。
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私も最初は面倒だった。しかし、「あすけん」という無料アプリを使うようになって、問題は解決した。朝昼晩に食べたものと間食、運動量を記入すれば、カロリー計算をしてくれる。入力は簡単でキーワードを入れれば候補が出てくるし、よく食べるものを登録したり、履歴からクリックすることもできる。
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1日分の情報を入れ終わると、点数とグラフが出てくる。「栄養価の過不足」のグラフで、適正範囲に到達していないものは、ビタミン剤などで調整する。私の場合、炭水化物が足りないとよく指摘されるので、コンビニのおにぎりを追加で食べたりする。すでに述べた通り、糖質が足りないと太る。
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こうして高得点を狙うようにしていたら、体重も減っていった。そんなことに夢中になるのはみみっちいと言われるかもしれない。それこそが狙いである。精神的な側面においても、みみっちい人間になりたい。
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