酒を飲むのに理屈はいらない。だから酒をやめるのにも理屈はいらない【適菜収】
【新連載】厭世的生き方のすすめ! 第2回

■新しいことにチャレンジ
たしかにフレンチやイタリアンに行くときはワインがないと困る。でも困るのはそのくらい。一方、益は大きい。夕方以降の時間が丸ごと空くので、一日はこんなに長かったのかと驚いた。その時間を使ってカラオケの練習をしたり、散歩するようになった。また、金銭的な余裕が出てくる。たとえば毎晩ビール1本と日本酒を3合飲んだとする。それにプラスしてたまにバーに行ったりすれば、酒代だけで1日5000円くらいになる。大雑把に計算して、月に15万円、年に180万円が消えていく。そこには多くの酒税が含まれる。要するに、税金を払うために働いているようなものだ。逆に言えば、酒を飲まなければ、働かなくてすむ。
*
たしかに酒を飲むと幸せな気分になるが、酒を飲まなくても幸せな気分になるならそちらのほうがいい。カネがかからないのだから。
*
酒を飲まなくなってから味覚も変化した。それで新しいことにチャレンジする気分になった。私は甘いものは苦手だったが、石和温泉に行ったときに、宿の近くのファミリーマートでプリンを買ってみた。なかなかおいしかった。同じものが東京のファミリーマートで売っていたのでそれも買ったが、しばらくすると店頭から消えてしまった。それでプリンを食べることはなくなった。
*
SNSにその話を書くと「コーラを飲んでみるのはどうでしょうか」という意見をいただいた。それで四半世紀ぶりに飲んでみたが、甘すぎて駄目だった。23歳くらいの頃、某所で社会調査の仕事をした。その研究所の冷蔵庫にペットボトルのコーラが入っていたので、アルバイトの大学生たちに「コーラ飲む?」と聞いてみた。すると、上智大学サッカー部の西村君が「なぜコーラなんて飲む必要があるんですか」と言った。当時は失礼な奴だなと思ったが、今思えばそのとおりである。なぜコーラなんて飲む必要があるのか。
*
この原稿を書き終えた数日後、某スーパーマーケットに行くと、石和温泉で食べたプリンがあった。「神戸シェフクラブ ロイヤルカスタードプリン」という品名で「とろ〜り感動 ほろ苦カラメルソース別添」とシールに書いてある。一瞬ためらったが買ってしまった。でも、これで最後にしようと思った。いくら低い位置に身を構えるにしても、50過ぎた男がプリンに夢中になるのはみっともない。
*
それにプリンは太る。もう少し、違った方法で、低いほうへ流れていきたい。
文:適菜収
- 1
- 2