酒を飲むのに理屈はいらない。だから酒をやめるのにも理屈はいらない【適菜収】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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酒を飲むのに理屈はいらない。だから酒をやめるのにも理屈はいらない【適菜収】

【新連載】厭世的生き方のすすめ! 第2回

イメージ写真:PIXTA

 

しいことにチャレンジ

 

 たしかにフレンチやイタリアンに行くときはワインがないと困る。でも困るのはそのくらい。一方、益は大きい。夕方以降の時間が丸ごと空くので、一日はこんなに長かったのかと驚いた。その時間を使ってカラオケの練習をしたり、散歩するようになった。また、金銭的な余裕が出てくる。たとえば毎晩ビール1本と日本酒を3合飲んだとする。それにプラスしてたまにバーに行ったりすれば、酒代だけで1日5000円くらいになる。大雑把に計算して、月に15万円、年に180万円が消えていく。そこには多くの酒税が含まれる。要するに、税金を払うために働いているようなものだ。逆に言えば、酒を飲まなければ、働かなくてすむ。

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 たしかに酒を飲むと幸せな気分になるが、酒を飲まなくても幸せな気分になるならそちらのほうがいい。カネがかからないのだから。

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 酒を飲まなくなってから味覚も変化した。それで新しいことにチャレンジする気分になった。私は甘いものは苦手だったが、石和温泉に行ったときに、宿の近くのファミリーマートでプリンを買ってみた。なかなかおいしかった。同じものが東京のファミリーマートで売っていたのでそれも買ったが、しばらくすると店頭から消えてしまった。それでプリンを食べることはなくなった。

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SNSにその話を書くと「コーラを飲んでみるのはどうでしょうか」という意見をいただいた。それで四半世紀ぶりに飲んでみたが、甘すぎて駄目だった。23歳くらいの頃、某所で社会調査の仕事をした。その研究所の冷蔵庫にペットボトルのコーラが入っていたので、アルバイトの大学生たちに「コーラ飲む?」と聞いてみた。すると、上智大学サッカー部の西村君が「なぜコーラなんて飲む必要があるんですか」と言った。当時は失礼な奴だなと思ったが、今思えばそのとおりである。なぜコーラなんて飲む必要があるのか。

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 この原稿を書き終えた数日後、某スーパーマーケットに行くと、石和温泉で食べたプリンがあった。「神戸シェフクラブ ロイヤルカスタードプリン」という品名で「とろ〜り感動 ほろ苦カラメルソース別添」とシールに書いてある。一瞬ためらったが買ってしまった。でも、これで最後にしようと思った。いくら低い位置に身を構えるにしても、50過ぎた男がプリンに夢中になるのはみっともない。

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 それにプリンは太る。もう少し、違った方法で、低いほうへ流れていきたい。

 

文:適菜収

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適菜 収

てきな おさむ

1975年山梨県生まれ。作家。ニーチェの代表作『アンチクリスト』を現代語にした『キリスト教は邪教です!』、『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』、『ニーチェの警鐘 日本を蝕む「B層」の害毒』、『ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒』、『小林秀雄の警告 近代はなぜ暴走したのか?」(以上、講談社+α新書)、呉智英との共著『愚民文明の暴走』(講談社)、中野剛志との共著『思想の免疫力 賢者はいかにして危機を乗り越えたか』、『遅読術』、『安倍でもわかる政治思想入門』、『日本をダメにした新B層の研究』(KKベストセラーズ)、『ニッポンを蝕む全体主義』『安倍晋三の正体』(祥伝社新書)など著書50冊以上。「適菜収のメールマガジン」も好評。https://foomii.com/00171

 

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