「何度やられても、諦めなければ負けじゃない」デビュー22年でIWGP頂点に立った後藤洋央紀の大逆転人生
■覚悟の8度目挑戦も跳ね返された
2016年は後藤にとって忘れられない年となった。まず1月4日の東京ドーム大会で、「俺に負けたらキャプテンクワナに改名しろ」「そもそもトップなんですかね?」と散々挑発してきた内藤哲也に勝利。
そして翌日の後楽園ホール大会で、当時のIWGP王者のオカダ・カズチカに挑戦表明。「何回挑戦するんだ」と疑問を呈され、大会後の会見ではオカダから「恥男」と屈辱的な言葉をぶつけられる。
そこから後藤がブチ切れた。IWGP8度目の挑戦が決まった後、オカダへ襲撃を繰り返すように。ファンは「空気を読め」と非難をするも、後藤の怒りは収まらなかった。
「あの頃は何かを変えようと思っていたんです。この時、IWGPに挑戦したのが8回目。毎年のように出てきては負けを繰り返していたのをどうにかしたかった。あれだけ言われたら黙っていられないし、空気を読むなんて考えてもなかったです」
2月11日に大阪府立体育会館で行われたIWGPヘビー級選手権試合で挑戦者として入場してきた後藤は、全身を白く塗り、黒い「写経」ペイント姿で登場した。観客から拍手は起きるも、声援は少ない。後藤の雰囲気に驚きと戸惑いを見せていた。
焦り、怒り、屈辱。切羽詰まった後藤は「すべてをひっくり返す」という覚悟でリングに上がった。不退転の決意で挑んだ8度目のIWGP戦。結果は残念ながら後藤の敗戦。このままで終わる、はずだったが、試合後に以外な展開が待ち受けていた。
マイクを握ったオカダが後藤へ向かってこう言い放つ。
「後藤さん、変わりたいならCHAOSに入ったらどうですか」
なんとオカダは自ら率いるユニットに後藤を勧誘したのだ。後藤はその場ではすぐに答えを返さなかったが、
「なんか、負けて入るのって、相手の言いなりみたいでイヤだったんですよ。でも、本隊に残っていても今のままじゃないですか。それで改めて考えて、変わるならそれくらいやらないと変化しないなって思って、CHAOSに入りました」
新しい場所へと向かったのは同年の3月。ここから後藤の進む道が変わっていく。
翌年の東京ドーム大会で盟友・柴田勝頼からNEVER無差別級のベルトを奪取。プロレス王・鈴木みのるとベルトをかけた抗争を繰り広げる。その後もタイチ、飯伏幸太、ウィル・オスプレイといったタイプの違った相手と臆する事なく戦い、IWGP戦線とは違う道で輝きを見せ始めた。
「NEVERの頃はIWGPのことを考える余裕はなかったです。とにかく次から次へと挑戦表明されるし、こっちがベルトを獲り返そうと動いても、すかされたりするので対応するのが大変でしたね。それにIWGPはオカダと同年代や若い選手が挑戦していたので、自分は望まれていないのかもと考えました。気持ちの面でもNEVERの時みたいに、いいものをお客さんに見せられないだろうなって弱気なところもありましたね」
後藤がNEVER戦線で戦っている頃、IWGPヘビーはオカダ、内藤、飯伏に加えて、ジェイ・ホワイトといった若手が台頭。「ベルトに挑戦」と口にできるような状況ではなかった。多くのファンも、後藤はIWGPを戴冠することはないと思っていただろう。