第2回:「野球部 母親 なぜ来る?」「タクシー 目の前の車を追ってくれ 実際にやってみた」 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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第2回:「野球部 母親 なぜ来る?」「タクシー 目の前の車を追ってくれ 実際にやってみた」

 

<第2回>
8月×日 【野球部 母親 なぜ来る?】
朝、散歩にでかける。

近所に中学校があるのだが、そこの校庭では野球部員たちが声を嗄らして休日練習に精を出していた。校庭の横では、部員の保護者であろうお母さんたちが日陰に座りながら世間話をしていた。

こういう光景を見るたびに思うのだが、あのお母さんたちはいったいなんの役目があって息子の部活練習なんかにわざわざ顔を出しているのだろうか。

気になって「野球部 母親 なぜ来る?」でグーグル検索。
検索結果から考察するに、どうも「お茶当番」なるものを部員の母親が交代制で行っているためだと思われる。
「お茶当番」、それはお茶を作って、練習後の部員たちに飲ませる当番であるらしい。

なんか、釈然としない。

そんなもの、野球部員たちが自ら適当に蛇口の水でも飲んでいればいいのではないか。わざわざ紫外線を気にしてまで、ただお茶を飲ませるため母親が息子の練習に一日付き合う必要があるのか。

だいたい、女子バレー部なんかで、父親たちが「お茶当番」として休日練習に付き添っている姿なんて、見たことないではないか。

なんだ、これは。野球部だけ甘やかしすぎではないか。
「スネちゃま」なのか、野球部員は。

成人で、体育会系で、部屋の本棚に自己啓発本ばっかり並べてそうな男が、女子多めの飲み会で変に威張ったり自分の話しかしなかったりする、あの諸悪の根源は、こういうところに眠っていそうな気がする。

 

家に帰ってお茶を飲んだ。お茶は、自分で淹れた。

 

 

8月×日【タクシー 目の前の車を追ってくれ 実際にやってみた】

夏が苦手だ。
夏を全力で楽しむことができない。
海に行ったり、山に行ったり、「おばさーん、かき氷くださいな」と言ったり、まあ最後のは完全にちびまる子ちゃん第一巻の表紙なわけだが、そういったことができない。

夏はいつも家でだらだらしていたい。しかし、今日はだらだらするわけにもいかない。引越し日なのだ。

 

家で引越し作業。
しかし、暑さで集中できない。基本的に「ドラクエの毒沼に浸かったあとの主人公」みたいな、なにもしないでもどんどんHPがこそぎとられていくという、非常にか細いコンディションで日々を生きている。

そこに加えてこの猛暑、さらには引っ越し作業。
もういつ死んでもおかしくない。
 

引越し先に持っていく荷物が、業者のトラックにギリギリ乗りきらなかった。
しかたなくその残った荷物は、自分でタクシーを呼んで運搬することに。
両手に風呂桶と箒を抱えた男を不気味そうに眺めつつも、タクシーの運転手さんはなにも言わずに引越し先まで運んでくれた。タクシーは、わりとなんでも黙ってやってくれる。

 

僕には夢がある。
もし、宝くじなどで大金を手に入れたら、おもむろに道行くタクシーに乗り込み、「目の前の車を追ってくれ」とだけ運転手に伝えて、あとは無言で黙り込む、という映画でよく見るアレをやってみたい。
 

きっと運転手は色んな事件を頭の中であれこれ想像するだろうし、僕は僕でその運転手の心のざわめきを想像する。
タクシーという密室の中で、なにかが生まれることだろう。
このだらしない日常に、ドラマをむりやりねじこんでみたいのだ。
 

しかし、本当に「目の前の車を追ってくれ」と伝えたら、タクシー運転手は素直に応じてくれるのだろうか?
タクシー 目の前の車を追ってくれ 実際にやってみた」で検索。
 

すると、いくつかの「本当にやってみたレポ」が出てきた。
やはり同じことを考える人たちはいるようだ。それらの記事を読んでみてわかったこと。

それは、
 

「タクシーの運転手に『目の前の車を追ってくれ』と頼むと、とりあえず追ってはくれるが、かなり早い段階で目的の車を見失う」

ということである。
 

そりゃ、まあそうかもしれない。この車社会だ。あまた溢れる車の中で一台だけを追うなんて、赤信号のことも考えると、かなり無理がある話なのだろう。
 

「運転手さん、あの車を追ってください」

「わかりました。なにか事件ですか?」

「まあ、そんなところです。なにも聞かないでください」

「そうですか。ところでお客さん」

「なんですか?」

「もう見失いました」

 

その時、車内に流れる気まずい空気を想像して、僕は身震えがした。

今日も、暑かった。

*本連載は毎月第1第3水曜日に更新予定です。

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ワクサカソウヘイ

わくさかそうへい

1983年生まれ。コント作家/コラムニスト。著書に『中学生はコーヒー牛乳でテンション上がる』(情報センター出版局)がある。現在、「テレビブロス」や日本海新聞などで連載中。コントカンパニー「ミラクルパッションズ」では全てのライブの脚本を担当しており、コントの地平を切り開く活動を展開中。

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