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日本シリーズたけなわ
ノムさんが語る「カメがウサギに勝つ方法」
「努力できること。それが一番の才能だ」

努力できること。それが一番の才能である。

 

◆苦労が「思考」「感性」「勇気」
 を育てる

 ドラフトも終わり、プロ野球は、日本シリーズもたけなわだが、一見、華やかな頂上決戦を少し違った角度から観るために、ノムさんこと野村克也元監督の本を紐解いてみた。

────毎年、プロ野球界にはたくさんの新人選手が入ってくる。
 例年同じ光景が繰り広げられるのだが、ペナントレースが始まる前からスポーツ紙の1面を何度も賑わせる新人もいれば、マスコミやファンからほとんど注目されることがないまま、プロ野球人生をスタートさせる新人もいる。
 プロ野球の世界がおもしろいのは、5年後、あるいは10年後には、両者の立ち位置が完全に逆転しているケースも珍しくないということだ。
 ただしこうしたことはプロ野球に限った話ではないだろう。どんな世界でも若くして才覚を発揮し将来を嘱望された人間が、必ずしもその後の人生で成功を収められるとは限らない。その逆もまた然りである。
 
 寓話の「ウサギとカメ」のように、カメがいつの間にかウサギに追いつき、気がつけばウサギを追い抜いているということは、実社会でもしばしば起こり得ることである。だから人生はおもしろく奥深いのだ。

 ◆なぜカメは、時にウサギに追いつき追い抜くことがあるのだろう。

 私は、入団早々に解雇通告を受けたものの、泣きついて球団に残してもらった。すると今度は、2軍の監督からファーストへのコンバートを命じられた。「おまえのその肩では、1軍ではキャッチャーとして通用しない」というのだ。確かに入団時、私の肩は弱かった。
 しかし、そもそも私が、南海の入団テストを受けたのは、当時の南海はキャッチャーが手薄であり、「自分にも入り込める余地があるはずだ」と考えたからである。だが、ファーストとなると、南海には飯田徳治さんといって不動の4番バッターがどっかりと座っていた。私が1軍でポジションを得られる可能性は限りなく低かった。つまりそれは私がたいした活躍もできないうちに、クビになる確率が高まることを意味していた。
「これは何が何でも肩を鍛えて、もう一度キャッチャーに戻らなくてはいけない」
 と、私は危機感を抱いた。そしてボールの握り方から勉強し直し、当時は誰も取り組んでいなかった筋力トレーニングにも挑戦して遠投力をつけ、わずか一年でキャッチャーへの復帰を果たしたのである。
 ちなみに当時の野球界では「利き腕では箸より重いものは持ってはいけない」といった非科学的なことが信じられており、筋力トレーニングは御法度とされていた。しかし私はそんなタブーに振り回されているわけにはいかなかった。野球選手としての道を切り拓くためには、肩が弱いという弱点を克服しなくてはいけない。そのためには新しいことへの挑戦をためらっている場合ではなかったのである。
 このように私のプロ野球人生は、まさに「苦労」の連続から始まった。しかし、この「苦労」があったからこそ私は60年もの間、選手や監督や解説者としてプロ野球の世界で飯を食うことができているのだと思う。
 苦労は誰だって嫌なものである。しかし、本物の苦労を味わった人間は、「どうにかこの状態から抜け出したい」と本気で願うものだ。すると苦労から抜け出すための方法を一生懸命「考える」という習慣が育まれていく。
そのことが何よりも大事なのだ。
 

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