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日本シリーズたけなわ
ノムさんが語る「カメがウサギに勝つ方法」
「努力できること。それが一番の才能だ」

努力できること。それが一番の才能である。

 

◆努力で得られる
「思考」「感性」「勇気」

 南海に入団したばかりのころ私は、プロ野球選手としてこれといってずば抜けた素質を持っているわけではなかった。私がほかの選手よりも優れているものがあったとすれば、それは苦労をする中で培われていった「思考」、「感性」、「勇気」の3つである。
 私は相手チームと戦うときに、「感性」を存分に働かせて相手選手の心理や状態を感じとろうとした。そしてキャッチャーとしてはバッターを打ち取るために、バッターとしてはピッチャーを打ち崩すために、徹底的に「思考」を働かせて考え抜いた。また勝つためには失敗を恐れずに新しいことにチャレンジする「勇気」も大切にしていた。
 私が日本のプロ野球界で当時、唯一3000試合以上の出場を果たし、王貞治に次ぐ657本のホームランを打つことができたのは、「思考」、「感性」、「勇気」の3つがあったからである。またこの3つの力は、南海、ヤクルト、阪神、楽天の4球団で監督を務めるときにも当然活かされた。
 天賦の才に恵まれた者たちが選ばれて入ってくるプロ野球の世界は、先ほどのウサギとカメでいえばウサギの集まりである。私から見れば、彼らの多くは「思考」も「感性」も使わずに「素質」だけで野球をしている。
 彼らは中学校、高校、大学と、ずっとお山の大将で野球をやってきた。下積みや苦労をした経験がないから、感じたり考えたりする必要もなかったわけだ。
 しかし、どんなに優秀な選手だったとしても、ごく一部の一流選手を除けば、プロに入ってからは「素質」だけで野球をしようとしても通用しなくなる。プロの世界には、自分よりも速いボールを投げるピッチャーや、遠くへボールを飛ばすバッターはざらにいるからだ。そのとき「思考」や「感性」を働かせ、変わる「勇気」を持てるかどうかが、プロで生き残るための分かれ道となる
 またごく一部の一流選手も、やがて年齢による衰えが来たときには、やはり「素質」だけで野球をするのは困難になる。にもかかわらず、今までどおりのやり方を続けていたら、早晩引退に追い込まれることになる。
 つまりどんな選手でも、いずれは「苦労」に直面しなくてはいけないときが来るわけだ。人生とはよくできたもので、若いときに苦労した人は歳をとってから楽ができるが、若いときに楽をすると歳をとってから苦労することになるのである。
 大切なのは苦労に直面したときに、「思考」や「感性」を働かせてその苦労を乗り越えられるかどうかである。そして今までの自分とは違う自分になろうとする「勇気」が持てるかどうかも大切になる。
 そう考えると苦労と真剣に向き合うことは、「本物の人間になるチャンス」であるといえる。
 若いころにさんざん苦労をしてきた私としては、苦労ほど嫌なものはないことは身に染みてわかっている。しかし一方で苦労が自分を成長させてきたこともよく知っている。

 今、日本の社会は厳しい時代を迎えており、多くの方々がそれぞれの現場でたいへんな苦労と向き合っておられることだろうと想像する。
 しかし、その苦労は絶対に報われるはずである。また報われるものにしなくてはいけないと思う。

『凡人の強み』より構成

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