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「ひきこもり」は5年前から15万人減ったのか?

統計から消された人々の姿とは――

 内閣府は今月7日、仕事や学校に行かず、6ヵ月以上にわたり、家族以外とほとんど交流せずに自宅にいる15~39歳の「ひきこもり」の人間が、全国で推計54万1000人に上ると調査結果を発表しました。
 この調査は2010年に続き2度目になり、前回から約15万人減ったことになります。この結果に対し、内閣府は「ひきこもりの人への支援がある程度効いたのではないか」としていますが、真実は果たしてそうなのでしょうか。
 この調査結果に抜けて落ちている視点、そして隠された問題点を、「ひきこもる女性たち」を上梓したジャーナリスト池上正樹氏に聞きました。

 今回の調査では、依然として2010年に行った内閣府の調査対象者の項目が「自宅で家事・育児をすると回答した者を除く」と定義されている。 

 

 これは、世間的にも家族内でも就労するのが当たり前と考えられている男性と比べ、女性は除外されることになる。さらに、夫や家族以外の外部との関わりがまったく途絶えている「ひきこもる主婦」や、そもそも回答欄の性別に選択肢のない「セクシュアル・マイノリティ」と同じように、社会にとって想定された対象ではなく、存在していないことになっていた。

 2010年当時、内閣府で調査を担当した明星大学人文学部心理学科の高塚雄介教授(2016年3月末日で定年退任)によると、ひきこもることへの「気持ちが理解できる」「自分もなるかもしれない」といった「親和群」の調査も同時に行ったところ、女性:男性=2:1と「女性の割合が多くなる」という逆転した結果が出たという。

 「女性はリストカットや摂食障害といった病理性を持った人が多い。そういう人たちが神話群の中に隠れています。ところが、男性と比べてアルバイトをしていたり、学校などへ行ったりしてしまうので、我々としては“親和群”として括るしかなかったのです」

 高塚教授によれば、彼女たちが考えていることや、行動経験は、「ひきこもり」の人たちとほとんど変わらないという。

 では、調査を行う上で、なぜ除外されたのか。

 「我々が最初から除外しているのは、妊娠中の人。子どもが生まれて、子育てに専念している人も、外していいだろうということになった。問題は、家事に専念しているタイプですが、この中にはひきこもりの人が確かにいると思います。ただ、多くの場合は家事労働という『労働』をしているわけですから、いわゆる“ひきこもり”とは少し違うのではないかということになった。こういう調査を行う場合、先行調査によって、サンプリングの結果からどういう傾向が得られるかを見ます。そこで、とりあえず除外してみようというふうになったんですね」

 つまり、「家事手伝い」の女性の場合、どちらにも当てはまる可能性があった。「除外する」決め手になったものは何だったのか。

 「やはり、目的意識があるかないかでしょうね。労働の一環として捉えられる“家事”として見た場合、いわゆる“ひきこもり”とは違うというように見たんです」

 ちなみに委託先の内閣府のほうから、そのようなサジェスチョンがあったわけではなく、あくまでも研究チームで先行調査の結果を見て、「省いたほうがいいだろう」という結論に至ったという。

 このように、社会通念として女性=「家事従事者」という隠れ蓑があることによって、女性たちがその奥に抱える“生きづらさ”がますます顕在化しづらくなっているのではないだろうか。

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池上 正樹

いけがみ まさき

フリージャーナリスト

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~プロフィール~

1962年、神奈川県生まれ。通信社勤務を経て、フリーのジャーナリストに。97年からひきこもり問題について取材を重ね、当事者のサポート活動も行っている。

おもな著書に『ダメダメな人生を変えたいM君と生活保護』(ポプラ新書)、『ドキュメント ひきこもり』(宝島社新書)、『大人のひきこもり』(講談社新書)、『痴漢「冤罪裁判」』(小学館文庫)、『あのとき、大川小学校で何が起きたのか』(青志社)などがある。現在、ダイヤモンドオンラインにて「「引きこもり」するオトナたち」を連載中。



(連絡先)otonahiki*gmail.com *を@に変えてお送りください。


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  • 池上 正樹
  • 2016.05.10