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誰にも気にされない「ひきこもる」主婦たち

日本特有の「専業主婦」、その肩書に吸収された人々の置かれている状況が今変わりつつある。

2016年5月10日発売の『ひきこもる女性たち』を執筆した池上正樹氏に、本書の中で取り上げた「ひきこもる主婦」の様相を伺った。

――主婦とひきこもるという行為には、一見関係性がないと思ったのですが、実際はどのような状況になっているのでしょうか。

「「主婦」と呼ばれる人たちの間でも、外側からは窺い知れない、けれども「ひきこもり」と同じ状態に陥っている人々が多く存在することがわかってきています。
 私の公開しているアドレスに主婦から届くメールの件数が多くなっていることに気づき、そんな「ひきこもる主婦」の実態について、2013年の初め頃から、『ダイヤモンド・オンライン』の連載でも取り上げるようになりました。
 すると、新しい記事だけでなく過去の記事を検索した主婦の人たちから、「私も同じような状況です」「私も自分の人生を生きていない」といったメールが数多く寄せられてくるようになったんです。潜在的に、かなりの数に上るのではないかと推測できます」

 

――なぜ、主婦はそのようなジレンマを抱えることになってしまっているのでしょうか?

「夫の口から何かの拍子にポロリと飛び出す「誰のおかげで食べさせてもらっているんだ!」という常套句がありますよね。「よい妻」「よい母」は、男性にとっての都合のいい幻想に過ぎないのに、社会は妻が「ひきこもる」ことをこぞって強制してきたのではないでしょうか
 そうしたエピソードを基に、週刊朝日で「人との交わりを避ける妻たち」を取り上げた企画も生まれ、テレビでも変化が起きました。2015年4月には『ノンストップ』(フジテレビ系)でも、「ひきこもり主婦」の特集が放送され、ネット上で大反響となりました」

――主婦がひきこもってしまう原因は、彼女たち自身だけでなく外側にもあるということですね?

「彼女たちはたとえ結婚できたとしても、夫や家族以外の人とは心を閉ざし、社会やコミュニティで孤立しています。そして、その悩みや課題は1人で抱え込んでしまうため、周囲や家族からも見えにくいのです。
 職場でのトラブルによって傷つけられ、心が折れて、安全な家庭の中でひきこもる主婦もいます。不登校からの延長で、ひきこもり状態になった女性は、男性から声をかけられて結婚したものの、本質的には結婚前と変わらず、夫が出勤して帰宅するまでの時間帯、ずっと家で寝たきりになっていると話していました。
 さらに、夫の転勤などの都合で、親しんだ地域を離れ、新たな居住地で生活せざるを得なくなる主婦も少なくありません。
 結婚後、共働きしていても、夫の転勤先について行かざるを得ず、退職によってこれまで積み上げてきた「キャリア」を捨て、自分が思い描いてきた人生の夢や目標もあきらめなければならないことに思い悩む人もいます」

――その悩みを抱えながら、社会との関係性がいつのまにか途切れ、池上さんに打ち明ける方々が多くなっていると。

主婦はひきこもっていても、誰も困らない。夫としても、家族としても、妻には家にいてもらったほうが、事故やトラブルに遭わないから安心できる。遊びにも出かけられるし、都合がいいのでは。
買い物やディナーなどで出かけないほうが、お金がかからない。
「ひきこもるのは、男性側から見れば経済的なんです」という人もいました。
 要するに、“妻は夫の所有物である”という強い価値観に縛られ、その枠の中で優等生として居続けようとするために、身動きができなくなっているケースもあると思います。
 今こそこのように声を上げ始めた「ひきこもる主婦」たちの人数や実態も調査して、彼女たちがこれから生きていくために、いったい何が障壁になっているのか。課題をひとつひとつクリアにして検証していく作業が必要なのではないでしょうか」

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池上 正樹

いけがみ まさき

フリージャーナリスト

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~プロフィール~

1962年、神奈川県生まれ。通信社勤務を経て、フリーのジャーナリストに。97年からひきこもり問題について取材を重ね、当事者のサポート活動も行っている。

おもな著書に『ダメダメな人生を変えたいM君と生活保護』(ポプラ新書)、『ドキュメント ひきこもり』(宝島社新書)、『大人のひきこもり』(講談社新書)、『痴漢「冤罪裁判」』(小学館文庫)、『あのとき、大川小学校で何が起きたのか』(青志社)などがある。現在、ダイヤモンドオンラインにて「「引きこもり」するオトナたち」を連載中。



(連絡先)otonahiki*gmail.com *を@に変えてお送りください。


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  • 池上 正樹
  • 2016.05.10