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万葉集に隠された石川女郎の正体!!

『日本書紀』が隠し、『万葉集』が暴いた?

常に新たな視点を持ち、従来の研究では取り扱われなかった古代史の謎に取り組み続けてきた歴史作家・関裕二が贈る、日本人のルーツを探る異端の古代史シリーズ!(現在第7弾まで発売中)その中でも厳選したテーマを紹介いたします。

石川女郎の正体!!

    歴史を解くヒントは、いろいろなところに転がっているものだ。                         もっとも分かりやすい例が、『万葉集』だ。

 『万葉集』編者は『日本書紀』が隠してしまった歴史の真相を、歌や題詞(だいし)を駆使して明らかにしようとしている。『万葉集』は、ただの歌集ではない。

 大津皇子(おおつのみこ)の謀反(みほん)事件の裏側を暴いていたのも『万葉集』だ。『日本書紀』は黙して語らないが、大津皇子が東国に向かっていたことは、『万葉集』の記事がなければ、永遠に隠匿(いんとく)されていただろう。『日本書紀』が隠し、『万葉集』が暴いたのだ。

 『万葉集』は、この事件に関して、もうひとつ興味深い記事を載せていた。それが、石川女郎(いしかわのいらつめ)をめぐる大津皇子と草壁皇子の、恋の鞘当てだった。ただしこの話、現実に起きていたわけではなさそうだ。問題は、「石川女郎」が実在したかどうか、怪しいところにある。

『万葉集』に石川女郎(石川郎女)なる人物が、世代をまたいで登場する。     だから通説は、「石川女郎は同一人物ではない」と考える。

   これは当然のことだ。しかし、「長い年月の間に登場する石川女郎」には、はっきりとした共通点がある。それは、「執拗に男を誘惑する、かなり積極的な魔性の女性」ということなのだ。

 ひょっとして、「石川女郎」は『万葉集』編者の編み出した「隠語」ではなかったか。

蘇我入鹿首塚と飛鳥寺

「石川」といえば、「蘇我氏」を指しているからである。

「石川女郎=蘇我氏」とみなせば、草壁皇子と大津皇子が、「蘇我氏の支持を取りつけるために必死になっていた」「石川女郎=蘇我氏は草壁皇子を見限り、大津皇子を選んでいた」と解釈することが可能となる。

 たとえば大伴旅人(おおとものたびと)の弟で容姿端麗と噂された大伴田主(おおとものたぬし)を、石川女郎は「風流人」と持ち上げ、「それなのに宿も貸さずに私を帰してしまうとは、間抜けなことですね」と叱責している。

 大伴氏といえば、最後まで残った反藤原派なのだが、名門ゆえに、どこか腰が引けたところがあって、徹底抗戦できぬままに、衰退した。

 石川女郎=蘇我氏は、それをなじっていたと解釈できる。

 

乙巳の変

 蘇我氏といえば、乙巳の変(いっしのへん)(六四五)によって衰弱したと思われがちだが、実際には、石川刀子娘貶黜(いしかわのとねのいらつめへんちゅつ)事件(七一三)が勃発するまで、隠然たる力を保ち続けていたのだ。

 その大きな存在を『万葉集』は「石川女郎」なる隠号を用いて明らかにしたのだろう。

異端の古代史シリーズ⑥ 持統天皇血塗られた皇祖神』コラムより

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関 裕二

せき ゆうじ

 



1959年生まれ。歴史作家。仏教美術に魅了され、奈良に通いつめたことをきっかけに、日本古代史を研究。以後古代をテーマに意欲的な執筆活動を続けている。著書に『古代史謎解き紀行』シリーズ(新潮文庫)、『なぜ日本と朝鮮半島は仲が悪いのか』(PHP研究所)、『東大寺の暗号』(講談社+α文庫)、『新史論/書き替えられた古代史』 シリーズ(小学館新書)、 『天皇諡号が語る 古代史の真相』(祥伝社新書)、『台与の正体: 邪馬台国・卑弥呼の後継女王』『アメノヒボコ、謎の真相』(いずれも、河出書房新社)、異端の古代史シリーズ『古代神道と神社 天皇家の謎』『卑弥呼 封印された女王の鏡』『聖徳太子は誰に殺された』『捏造された神話 藤原氏の陰謀』『もうひとつの日本史 闇の修験道』『持統天皇 血塗られた皇祖神』『蘇我氏の正義 真説・大化の改新』(いずれも小社刊)など多数。新刊『神社が語る関東古代氏族』(祥伝社新書)



 


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