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教師を疲弊させる社会に未来はあるか

新学期シーズン必読。混迷する教育現場の原因を探る。

 「世界一忙しい」といわれる日本の教師。2014年、経済協力開発機構(OECD)が発表した「国際教員指導環境調査」では、参加国・地域の中学教師の平均勤務時間が1週間で38.3時間だったのに対し、日本は約1.4倍の53.9時間と最長でした。しかし現実は、そこまで働きつめている教師に対する世間の評価というのはなんとなく悪いのではないでしょうか。
 この現場と社会との現代のねじれた関係性について「尊敬されない教師」著者、諏訪哲二氏に話を伺いました。

◆贈与から交換関係へ変化した教育界

 

 

「尊敬されない教師」が誕生したのは、教師がダメになったからではなく、市民社会レベルの人と人との関係(契約関係、商取引の関係)が学校に持ち込まれたからなのである。教師に敬意を払う社会的習慣がなくなったからだといってもいい。

 昔は、学校や教育は国や社会からの贈与と思われていた。社会(共同体)からの贈与を受けて子どもは成長していくのである。子どもは共同体(家族・コミュニティ・学校)からの贈与(保護、養育、教育)を受けて大きくなっていく。いきなり、一人で市民社会に投げ出されるわけではない。親の養育も贈与なら、教師の指導(管理)も贈与なのである。

 子どもたちが対価を支払って「買って」いるわけではない。一方的な恩恵なのである。したがって、この関係は商取引のような対等な契約関係ではない。子どもは親や教師にけっして返すことのできない負債(恩恵)を追って成長する。この関係性はいくら社会が進歩しても、「消費社会」化し、市民生活が成熟しても変わらない。

◆要求される対等関係

 ところで、私たちの生活の場である市民社会の人と人との関係の基本は商取引を原型としている。共同体的なつながりは後景に退き、人と人との対等な契約関係(商取引)が基本になっている。現実にそうなっているかはともかくとして、理念としては対等な者同士が契約を結んでモノやコトのやりとりをすることになっている。これが平等の根拠である。つまり、社会の基本は贈与から交換関係になっている(贈与が消えたわけではない)。

 いうまでもなく贈与は一方の側が相手に対して優位な立場に立っている。贈与される方は贈与する方が押しつけてくる関係性を受け容れざるをえない(子どもが生まれるのも贈与であり、その親との一方的な関係性を迫られる。もちろん、親も子どもも贈与されるわけで、その子との一生の関係を迫られることになる)。

 それに対して、交換は対等である。交換は嫌だったら契約を結ばなければいい(商取引と同じでいつでも解消できる)。これが市民社会のモノやコトのやりとりのルールである。私は1980年代中葉に、とりわけ低位の高校では教師と生徒が商取引の関係になっていたのではないかと考えている。
 いま考えてわかることは、彼らは商取引(交換)を教師とのあいだで意識的・無意識的にやろうとしたのである。

 これは私が経験したことではないが、生徒が授業中ずっと喋っているので、若い教員が注意したら、シャープペンをぶつけられて、「これくらい喋っていても、授業の邪魔にはならねえだろう」といわれた。「オレが納得しない注意は認められない」と対等(商取引)を主張している。

◆いつまでたっても変わらない日本の教育界

 あれから三〇年くらい経つ。親や生徒たちの等価交換を学校や教師に求める「民間のちから」は「教員のちから」を圧倒して優位に立っている。「行政のちから」は当時もいまも教員の味方をしてくれない。住民とトラブルを起こしたくない事なかれ主義で一貫しているからだ。地方や地域によって土地柄のしっかりしているところは、コミュニティの人たちが学校を支えてくれるので、何とか「教員のちから」が通っているところはある。

                   <『尊敬されない教師』より引用>

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~プロフィール~

1941年千葉県生まれ。「プロ教師の会」名誉会長。作家。東京教育大学文学部卒業。埼玉県立川越女子高校教諭を2001年3月に定年退職。「プロ教師の会」は、80年代後半に反響を呼んだ『ザ・中学教師』シリーズ(宝島社)をはじめとして、長年にわたり教育分野で問題提起を続けている。著書に『なぜ勉強させるのか?』『間違いだらけの教育論』(以上、光文社新書)、『オレ様化する子どもたち』『「プロ教師」の流儀』(以上、中公新書ラクレ)など。


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