弁証法を生かした武道家

『武道とは何か』などの著作もある、南郷継正氏という武道家がいます。その南郷氏は哲学者でもあった三浦つとむ氏の『弁証法とはどういう科学か』(講談社現代新書)という本に感銘し、強い影響を受けたようです。

 弁証法には「対立物の相互浸透の法則」「量質転化の法則」「否定の否定の法則」の三つの法則があります。

 その中の量質転化の法則について、三浦氏の『弁証法とはどういう科学か』には「量的な変化が質的な変化をもたらし、また質的な変化が量的な変化をもたらすというのが『量質転化』の法則です」と書かれています。

 量的な変化が質的な変化をもたらすということは、非常に多くの量を行なうと、質が変わってくるということでもあります。

 武道家の南郷氏はこの点にも着目して、量を行なうことを武道理論の一つとして挙げています。南郷氏は弁証法を机上の空論にしないで、自分のこととして活かしているのです。

 私もかつて武道をしていたので、この「量質転化の法則」は実感としてもよくわかります。ある技をしっかり身につけるには、5000回程度の練習では不十分でした。最低でも1万回、できれば2万回以上練習を重ねないと完全には自分のものにならないというのが私の実感です。

 南郷氏は弁証法を軸にして武道論を組み立てました。彼は哲学を生きている人の一人といえるでしょう。